外国人の医療費「横取り」を許すな ノンフィクション作家・福田ますみ氏が解説

国内 社会 新潮45 2018年9月号掲載

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保険制度の抜け穴

 保険料では賄えず多額の税金を投入して維持している国民皆保険。その制度の抜け穴を見つけて外国人が次々医療費を手にしているという。ノンフィクション作家の福田ますみ氏がその実態を解説する。(以下、「新潮45」2018年9月号より転載)

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 我が国では、加入している医療保険の保険証を病院の窓口で提示しさえすれば、だれでも等しく一定の自己負担で、質の良い医療サービスを受けることができる。私たちはこれを当たり前のように享受しているが、世界広しと言えども、これほど充実した公的医療保険制度を備えた国はまずないと言っていい。

 事実、2000年に世界保健機関(WHO)から世界最高の評価を受けている。しかしこの世界に冠たる国民皆保険制度が、急速な高齢化による医療費の増大で危機に瀕している。厚生労働省が発表しているデータによると、1999年度に30兆円を超えた日本の年間医療費は13年度には40兆円を突破、15年度に42兆円に達した。

 膨れ上がる医療費を少しでも抑え、国民皆保険制度を持続可能なものにしていくため、国はあれこれ対策を講じようとしている。例えば財務省では、75歳以上の後期高齢者が病院に支払う自己負担額を、1割から2割に引き上げる案を提示している。

 だが、こうした苦肉の策を無にしかねない事態が思わぬところで進行している。日本の健康保険制度の抜け道を利用して、濡れ手で粟でその恩恵に与ろうとする外国人がいるのである。そもそも、決められた条件を満たせば、来日外国人であっても国保に加入できる。

「留学ビザ」や日本で事業を行う場合に発行される「経営・管理ビザ」で入国し、3カ月滞在すれば住民登録ができ、国保に加入する義務が生じるからである。以前は1年間の在留が条件だったが、2012年の住民基本台帳法の改正で3カ月に短縮された。健康保険証を手にすれば、極端な話、まだ一円も保険料を納めていなくとも、すぐその日から保険証が使える。

 すると、留学目的や日本で事業を行う目的で来日したはずの外国人がすぐに病院を訪れ、重い持病の治療を受けるケースがあるという。これは、医療目的を隠して来日し、国保に加入して、日本の良質な医療を不当に安く受けようとする魂胆があるのではないかと疑われるが、偽装を見抜くのは難しい。

 こんな事件もあった。がんや脳梗塞の治療のために来日し、広島市内に住んでいた中国やロシア、ウクライナ国籍の男女7人が、医療目的での在留資格では国保への加入ができないにもかかわらず、なぜか健康保険証を所持。12年から15年にかけて、合計約3785万円の医療費の支給を受けたのである。

 いったいどうしたことか。市の保険年金課ではこう説明する。

「12年の住民基本台帳法の改正で、医療目的の滞在の外国人でも、3カ月以上の在留で住民票が作れるようになったのです。当時の担当職員が、これで国保の加入もできるようになったと勘違いし、加入を認めてしまったのです。広島入国管理局が照会して発覚し、現在、返還交渉をしていますが、7人のうちの5人はすでに出国。国内にいる2人も、今のところ返還に応じていません」

 市のミスとはいえ看過できないのは、7人のうち複数が、高額療養費制度を利用して1人当たり数百万円もの支給を受けたことだ。高額療養費制度とは、1カ月に自己負担する医療費の上限を定め、それを超える分が支給されるというもの。患者にとっては大変ありがたい制度である。

 7人は実費での治療を選んで来日したはずで、それなりの資金を持っていたと思われる。それでも一円たりとも返還していない。

海外での医療費も負担

 外国人が国保に加入していれば享受できる「旨味」はまだまだある。

「海外療養費支給制度」と「出産育児一時金」である。

「海外療養費支給制度」とは、海外旅行や海外赴任中に、急な病気やケガなどにより、やむを得ず現地の医療機関を受診した場合、申請により一部医療費の払い戻しを受けられる制度である。もちろん、日本人を対象に作られた給付制度だが、在留外国人も支給を受けられる。たとえば、日本の健康保険に加入している中国人が、本国の病院で治療を受けた場合、日本から見れば中国は「海外」となるため、日本が治療費の一部を負担するのである。

 なぜ、中国人が自国で治療した費用まで日本が払わなければならないのか釈然としないが、給付条件を満たしていれば不正ではない。在留外国人の急増を受けて、この海外療養費を申請する外国人が増えている。その中でも数の上で突出しているのが中国人である。

 たとえば、東京23区の中で荒川区の場合。同区の人口は現在、21万5486人。そのうち中国人は約3%である。ところが、海外療養費の支払い件数をみると、14年度の実績で、合計80件中、日本人44件に次ぎ、中国人は30件という多さ。支給額に至っては、日本人83万8334円を凌いで115万2218円とトップで、全体の52・8%に及ぶ。

 政令指定都市のひとつである千葉市の場合、現在の人口は97万7485人。そのうち中国人は1万716人で約1%である。ところが12年度に海外療養費を申請した件数を国籍別でみると、日本人が368件で74%、次いで中国人が110件で22%(12年当時、千葉市在住の中国人の割合は1%以下である)。3位はバングラデシュ人で8件、2%である。

 いったいこの外国人たちへの支給は適切だったのだろうか。

 千葉市議で歯科医であり、この海外療養費の問題に詳しい阿部智氏は言う。

「中国人が突出しているのも問題ですが、千葉市内にわずかしかいないバングラデシュ人が、この年に8件もの申請を行ったことも非常に不可解です。私は、09年~12年度に千葉市から海外療養費を支給された外国人の申請受付状況を記した資料を入手しましたが、明らかにおかしい。たとえばバングラデシュ人の5人家族が、数カ月ごとにバングラデシュに帰国しては、家族が同時期に入れ代わり立ち代わり入院している。病名は様々で、給付金は1回で数十万円、100万円以上になることも。

 結局このバングラデシュ人の家族に支払った金額は約400万円にも上る。どう考えても不自然ですが、ほぼノーチェックで支払われていたわけです」

堺市の不正受給事件

 海外療養費を申請する場合、現地の病院で治療費を支払った際の領収書の原本が必要になるが、海外に出ていないにもかかわらず、国内で領収書を偽造したり、治療の事実がないのに病院に賄賂を渡して本物の領収書を発行してもらうなど、様々な偽造が可能だという。これを見抜くことは容易ではない。

 外国人の間のこの申請乱発については、14年7月に、タレントのローラの父親が、海外療養費の詐欺容疑で逮捕されたことで、にわかに注目されるようになった。ローラの父親は、同国人たちに詐欺の手口を指南し、詐取した海外療養費のかなりの部分を受け取っていたとみられる。

 だが、海外療養費の不正受給で摘発された第一号は、大阪府堺市に住んでいた中国人の男女13人である。大阪府警によると、9件の虚偽申請で約240万円を不正受給した容疑で、13年1月に逮捕されている。13人は09年から11年にかけて、中国で入院したとする虚偽の診療内容明細書などを堺市南区役所に提出していた。13人の中にこの制度を過去に利用した男がおり、この男の入れ知恵で詐欺を計画、日本語のできる親族の女子大生が書類を偽造していた。

 書類には、中国語で書き込むべきところを日本語が使用されているなど不自然な点が多かったが、見逃されていた。この堺市南区では近年、中国人からの申請が年間数十件あった。しかし、警察がこの事件の捜査に乗り出して以降激減したというから、同様の不正受給が横行していた可能性がある。

 摘発こそされていないが、千葉市でのバングラデシュ人のケースも似たようなものである。

 これらの事件以後、厚生労働省は申請時のチェック体制を強化することを決定した。

「各市区町村の保険課では、外国人から申請があった場合、現地の病院に照会するところも出てきました。私どもの会社は、その代行業務を担っています」(株式会社メディブレーン 取締役・小島啓太氏)

 大阪に本社を置く同社は、医療費適正化コンサルティング会社である。医科のレセプト点検などを手がける関係で、在留外国人の多い約30の市区町村から、海外療養費申請書点検の業務依頼が来たのである。

「現地に電話を入れたり、現地にいる人間に確認をさせたりして照会をかけていますが、対象となるのは中国が半数に上ります。病院に確認するとそんな患者はいないとか、そんな医者はいないということもあり、ひどい場合は、病院自体が存在しないということもありました。ただ、最近は申請者に対し、パスポートの写しと海外の医療機関への問い合わせに対する同意書の提出を義務づけているため、その時点で不正をある程度防げる。ですから、問い合わせで明らかな不正があった例はそれほど多くないです」(小島氏)

 海外療養費については、警察の摘発とチェック体制の強化で、以前よりは不正受給を未然に防げているということか。

外国人が海外で産んでも

「今むしろ、水面下で不正が横行しているのは出産育児一時金の給付だと思いますよ」

 と小島氏は言う。

 日本の健康保険制度を巡る外国人の不正受給疑惑を最初に取り上げ、調査を行っている東京都荒川区議の小坂英二氏は、とりわけこの出産育児一時金を問題視する。出産育児一時金とは、国保や社保に加入していれば、子供が生まれた時、役所に申請して一律42万円が受け取れる制度である。実はこれは、海外で出産した場合も適用される。たとえば、来日して日本の企業に勤め、社保に加入している中国人の男性の場合、中国にいる妻が出産すれば42万円がもらえるのである。これも納得がいかない話だが、制度上は可能である。

 この海外での出産の場合、海外療養費の詐欺事件でもわかるように、虚偽申告は容易だ。しかも、

「海外療養費の申請の場合は、実際に治療費を支払った領収書が必要ですが、出産育児一時金の場合は、事実上、病院の出生証明書さえあれば42万円がもらえるのです」(メディブレーン・小島氏)

 ちなみに荒川区が17年度に、海外での出産で出産育児一時金を支払った件数は41件。そのうち最も多い出産国は中国で27件。これは全体の約66%を占める。中国で出産した母親の国籍は日本人が1人、中国人が26人。国内の出産で一時金を支払った件数でも、日本人の153件に次いで多かったのが中国人の34件で、全体の15・2%に当たる。

 大使館が多いため、同じ外国人は外国人でも、昔から欧米人が多く住む印象のある港区。しかし、港区議の榎本茂氏によれば、最近は中国人が急増しているという。

 榎本区議も、港区の外国人の海外出産での、出産育児一時金の支払い件数とその内訳に注目している。

「2016年度に一時金を支払った総数は13人。うち中国人が5人で最も多い。17年は、合計17人に支払いを行い、そのうち中国人が7人とやはり一番多い。気になるのは、16年と17年の中国人の受給者12人のうち、日本での永住者が5人もいることです。いろいろ事情はあるかもしれませんが、永住者がわざわざ、中国に帰って産むものですかね」

 榎本区議は、海外出産した外国人の母親の年齢も調べたが、ひとり48歳という母親がおり、これにも首をかしげる。

「出生証明書はどうにでも偽造できるし、日本に住んでいるならみな持っているはずの母子手帳の提示も求めない。これでは妊娠の事実を確認できません」

 出産育児一時金についてはさすがに知っているが、高額療養費や海外療養費となると、聞いたことがないという日本人は多い。ところが、日本在留の外国人、とりわけ中国人のほとんどはこの給付制度を知っているという。恐るべし中国人。

 元警視庁刑事で、北京語通訳捜査官として中国人犯罪の捜査に従事し、現在は、『在日特権と犯罪』など、多くの著作のある作家・坂東忠信氏は、日本の健康保険制度の盲点につけ込む中国人のメンタリティを次のように解説する。

「中国には、『お上に政策があれば、下々には対策がある』という言葉があります。つまり脱法精神が旺盛なんです。とりわけ、著作権法違反とか入管法違反とか、明確な被害者が存在しない場合、罪悪感は皆無です」

 日本の健康保険制度ができた時、こうも外国人に利用されるとは、とうてい想定できなかっただろう。

 前出した歯科医師で千葉市議の阿部氏によれば、公的保険でほぼすべてカバーできる手厚さ、そして、保険証一つでどのクラスの病院にも受診できるフリーアクセスの便利さが、外国人の付け入る隙を招いているという。また、荒川区の小坂区議はこう主張する。

「以前は、私が議会でこの問題を追及しても、(不正があるかどうか)調べていないから証拠もない。証拠もないのに、外国人に偏見の目を向けるのは良くない、などと言われましたが、もうそんなことを言っている場合ではない。日本人のために作られた制度なのだから、日本人の手に取り戻すべきです。少なくとも、不正が横行する事態を放置してはならない。そして、外国人には別の制度を作るべきです」

“蟻の一穴”という言葉がある。外国人一人一人の小さな不正の積み重ねによって、世界に冠たる制度が食いつぶされる恐怖。私たちはそれを看過すべきではない。

福田ますみ(ふくだ・ますみ)
1956年横浜市生まれ。立教大学社会学部卒。著書に『モンスターマザー』『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』『暗殺国家ロシア』『スターリン 家族の肖像』など