東大に進学「コンビニ外国人店員」が憂う日本経済の将来

ビジネス2018年5月28日掲載

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コンビニ外国人の素顔は?

 コンビニのカウンターで外国人店員を見て、一瞬、戸惑う――そんな感情はもはや昔のものだと言っていいだろう。都心などではむしろ日本人だけの店の方が珍しいくらいになっている。

 単にモノを売るだけではなく、チケットの発券、宅配便の受け取り等々、日本人でも複雑に感じる業務を手際よくこなしていく外国人店員たち。毎日のようにお目にかかるのに、その素顔を知る機会は少ない。

「どんな人たちで、何を考えているのだろう」

 そんな素朴な疑問から、コンビニで働く外国人たちへの取材を重ねたルポが『コンビニ外国人』(芹澤健介・著)。

 さまざまな国から来日して働く外国人たちの本音や生活ぶりが描かれている同書から、「超エリート」とも言うべき「コンビニ外国人」の素顔を紹介しよう(以下、『コンビニ外国人』から抜粋・引用)。

東大大学院に進んだベトナム人留学生

 レー・タイ・アイン君(24)は、現在、東京大学の大学院に通っている。全国で6万人を超すベトナム人留学生の中ではトップクラスのエリートだ。

「学際情報学府で経済を中心に学んでいます」

 と言う。

 学際情報学府というのは、東大の中でも比較的新しい組織で、文字通り学部という垣根を越えた学際的な研究を進めている。

 アイン君の日本語レベルはN1(同時通訳ができるレベル)。TOEICは900点台を誇る優秀な学生だ。

 高校はベトナムでも珍しい日本語文化学部を擁するハノイ国家大学外国語大学付属高校。ベトナム全土でも超難関校として知られる英才教育校である。

 成績優秀だったアイン君は、高校生のときに1度、交換留学生として日本に短期留学した。

「10カ月間、広島の高校に通いました。広島市街ではなく地方の高校だったので、最初は『日本にもこんな田舎があるんだ!』と驚きましたが、同時にほっとしたのを覚えています。その10カ月は、のんびり楽しく過ごすことができました」

 この経験から日本への憧れはますます強くなったという。そして日本の大学に進むことを決意。母国の国立大学にも合格したが半年で退学して来日。最初の1年弱は高田馬場の日本語学校に通った。

 それと同時に寝る間を惜しんで大学の受験勉強もはじめ、来日から1年足らずで中央大学経済学部に合格。昨年3月に卒業した。

 この間、日本語学校時代と学部生時代の約5年、彼はコンビニでアルバイトをしている。

「お店は何店舗か変わりましたが、ぜんぶローソンです」

 アイン君はローソンの奨学生だったのだ。

 ローソンは現在、ホーチミン市とハノイ市に独自の研修施設を作っているが、2009年よりベトナム人留学生を対象に奨学金制度をはじめた。奨学金支給の規定には「ローソンでアルバイトすること」という項目があるので、ほかのコンビニで働いたことはないという。

 毎月の給付額は13万円。支給型なので返済義務はない。バイトで稼いだ分はそのまま自分のものになる。

 最初に働いたのは品川駅近くのローソン。2、3カ月経つと仕事にも慣れたという。

「難しかったのは宅配便の受付です。最初は、日本人の書く字があまり読めなかった。とくに漢字が読みづらかったですね」

 時給はどうだったのか。

「時給は日本人とまったく同じです。働きはじめたときはたしか910円でした。でも、大学生になって、学校の近くのローソンに移ったら時給が850円に下がりました」

 キャンパスが郊外にあったからだ。

 それでも彼は日本のコンビニで働けたことを感謝しているという。

「後半の3年半は複数の店舗を経営しているオーナーのもとで働いていたので、いろんな店舗をまわりました。最終的には時給も1200円まで上がりましたし、土日や祝日にはベースの時給に50円余計につけてくれたり、夏休みや冬休みもあって、オーナーにはずいぶんよくしてもらったと感謝しています」

 しかし、大学院への進学とともにコンビニのアルバイトは辞めざるをえなくなった。勉強が忙しいために、拘束時間の長さがネックとなったからだ。

「でも、多くの留学生にとってコンビニはやはり魅力的なバイト先だと思います。深夜帯のシフトに入れば1回でそれなりの額を稼げますし……」

 アイン君によれば、欧米に留学するベトナム人と比べると、日本に来るベトナム人留学生は低所得者層出身の子が多いという。彼の知り合いには2DKに8人暮らし、という学生もいる。

日本が好きだからこそ心配

 日本人にとって幸いなのは、アイン君のような人達が日本に対して好印象を持ち続けてくれていることだろう。

「日本のことは好きですし、これからもずっと日本と関わっていきたい」

 とアイン君は語る。

 もっとも、その愛情ゆえに、厳しい言葉も口をつく。

「いま日本には外国人が増えて困るという人もいますが、東京オリンピックが終わったらどんどん減っていくと思います」

 彼の分析はこうだ。ソウルオリンピック以降、開催国の成長率が上昇したのはアトランタオリンピックだけで、それもIT革命の影響が大きい。

「しかし、いまの日本にそのような起爆剤は見込めません。ですから、おそらく東京オリンピックの後は、日本は不況になります。しかも、日銀の超低金利もオリンピック後には上昇する見込みで、企業の資金調達も困難になると思います。同時に日本はすでに労働人口も減り続けているので、本来は外国人の労働力をうまく使わないと経済成長できませんが、外国人はきっと増えません。なぜなら日本は外国人労働者の受け入れ制度が整っていませんし、多くの外国人が『日本は不況だから稼ぐのは難しい』『人出不足で残業が多くなるのはイヤだ』と考えるからです。そうなるとより多くの労働力が減って、日本の経済はますます傾いていくでしょう」

 むろん、この見立てが当たるかどうかはわからないし、日本人にとっては外れてほしいところである。

 しかし、コンビニという現場を知り、さらに学問の場で知識を深めている若者の意見には一定の説得力があるのではないだろうか。

デイリー新潮編集部