弁護団が付いた後に精神錯乱… 「麻原彰晃」元死刑囚は“ガンゼル症候群”だった!

社会2018年8月19日掲載

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サイコキラーの事件ファイル オウム真理教「麻原彰晃」――小田晋(5/5)

 7月6日に死刑が執行された麻原彰晃元死刑囚の収監生活は、じつに20年以上に及んだ。その過程で“精神錯乱”の状態にあったことは知られているが、精神科医の小田晋氏(故人)は、そのウラを以下のように読む。写真週刊誌FOCUS(休刊中)に寄せた「サイコキラーの事件ファイル」麻原彰晃編の最終回である。(※以下の記事はFOCUS 1999年6月9日号掲載時のもの)

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――「アイ キャン スピーク イングリッシュ ア リトル」。‘97年4月、裁判の罪状認否で発言した麻原彰晃は、突然、英語で意見を述べ始めた。英会話としては中学生レベルだったが、この中で、彼は、全てのオウム事件を弟子へ責任転嫁し、その挙げ句、「第3次世界大戦が終わって、日本はない。ここは、アメリカの空母、エンタープライズの上」と理解不能なことを言い出したのだ。すでに120回を数える麻原公判で、不規則発言を繰り返し、退廷させられること5回。錯乱したかに見えるオウム真理教教祖の心理。

 毎回、公判に臨む麻原教祖の態度は、異常な行動ではあっても、むしろ退行、幼児化しているようだと気付かれた方はいないでしょうか。この退行化は極刑が予想される犯罪者に、よく見られる症状で、我々、精神科医が拘禁反応と呼んでいるものの一種なのです。

 これは、ドイツの精神医学者のガンゼルが発見したため、ガンゼル症候群とも言いまして、狭い空間に閉じこめられ、助かりたいという気持を持っている未決囚に特有に見られる症状です。まさにハムレットに描かれているような心理状態から生まれるものですが、困ったことに、どこまでが詐病で、どこまでが狂気なのかが、ハッキリしない。無意識に詐病しているような感じでしょうか。実は、人間は相当に昔から同じ事をしていまして、狂気に陥ったふりをして罪から逃れようとする人の記録は、紀元前13世紀にまで遡ることができるほどです。

 拘禁反応の具体的な症状としては、まず意識障害を挙げることが出来ます。自分がどこの誰かわからないという朦朧とした状態に陥るケースです。次にニセ痴呆。代表的なのは「的はずし応答」と呼ばれるもので、実際は答えを知っていろのに、わざと間達った答えをする場合。例えば、1足す1は5と答えるような症状で、知的障害と判定されてしまうようなレベルを演じるのです。

 さらに、赦免妄想が生じることもあります。自分は本当は無罪で、天皇陛下が自分に対する釈放の命令を出してくれるという妄想を信じてしまうケースです。さらに「お父ちゃま」とか「僕ちゃん」などの幼児語を使って、幼児化してしまうことさえあります。オウムの麻原教祖の場合は、ここまでには至っていませんが、英語で意見陳述したのはこの亜系で、そもそも、場違いな英語を喋りたがるのは、子供っぽい自己顕示欲が強い人に見られる傾向と言えます。

 まあ、彼の場合は、弁護団が付いた後に、異常行動が始まったというのが注目される点でしょう。と言うのも、不思議なことに、極刑を予想される犯罪者は、弁護士と接見した後、急に異常な行動をとり始めることが多いのです。宮崎勤被告もそうでしたし、未決囚と接見した弁護士が「まあ、精神鑑定は申請しておくから……」とでも言えぱ、ピンと来るのかも知れません。

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