巨大宇宙船を捕捉? 銀河系を彷徨う「オウムアムア」 国立天文台教授の「宇宙」最新レポート

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自然の天体としてはかなり奇妙

 軌道が確定すると、国際天文学連合は、星間空間の天体という分類をはじめてつくり、その最初の登録天体にしました。人類史上、はじめて星間空間からやってきた、つまり太陽系外からやってきた天体が発見されたわけです。このように軌道が決まると、発見者が通称の命名提案を行います。ハワイ大学等の研究者からなる発見者グループは、オウムアムアと提案しました。ハワイ語に由来する言葉で、オウは「手を伸ばす、手を差し出す」、ムアは「最初の」という意味です。ムアムアと繰り返しているのは強調する場合の言い方です。つまり、太陽系外から私たちのところに最初にやってきたメッセンジャーという意味が込められています。

 太陽系外からやってきたらしい、という噂が飛び交うと、さっそく多くの望遠鏡が向けられました。観測データが積み上がっていくと再び衝撃が走りました。というのも、極端に細長い形だったのです。その形状は長さが約400メートル、幅は約40メートル。長さと幅の比率が10:1と、葉巻のような形です。これまで発見されている太陽系の小天体では、細長くてもせいぜいその比率は3:1どまりで、10:1という極端な例は見つかっていません。自然の天体としてはかなり奇妙です。

 宇宙人が建造した葉巻型宇宙船ではないか? そんな噂も飛び交いました。細長い葉巻型の形状は、危険を避ける意味で、宇宙航行には最も適しています。宇宙戦艦ヤマトも、USSエンタープライズも、その船首を先に向けて航行していますよね。進行方向に対して、断面積を最小にして、宇宙空間の塵などと衝突するリスクを少なくできるのです。

 ただ、オウムアムアは8時間ほどの周期で自転していました。葉巻のような天体がくるくる自転している場合、進行方向から見て細長く見える時と丸く見える時、すなわち、断面積が大きくなる時と小さくなる時があります。これを考えると、巨大宇宙船が取るリスク低減策とは矛盾しています。宇宙船であったとしても、すでに制御されていない、かなり昔に廃棄されたものかもしれません。さっそく、ブレークスルー・リッスンと呼ばれるプロジェクト(知的生命体の信号を捉えようとしているグループ)が、彼らの使える電波望遠鏡を駆使して、オウムアムアから何らかの信号が出ているかどうかの観測を行いました。残念ながら、信号は発せられていなかったようです。その後の観測からもオウムアムアは自然の小天体である可能性が高いようですが、現在はすでに太陽系から猛スピードで遠ざかりつつあるので、これ以上詳しい観測は難しそうです。巨大な宇宙船説は確かめられそうにありませんが、想像が膨らむのは確かです。

(3)へつづく

渡部潤一(わたなべ・じゅんいち)
国立天文台副台長。1960年福島県生まれ。東京大学理学部天文学科卒。専門は太陽系小天体の観測的研究。2006年、国際天文学連合「惑星定義委員会」の委員となり、太陽系の惑星から冥王星の除外を決定した最終メンバーの一人。

まとめ:渡部好恵(わたなべ・よしえ)
神奈川県生まれ。東レ基礎研究所、蛋白工学研究所を経てライターに。天文雑誌やウェブサイトにて、天文宇宙分野を中心に執筆活動を行っている。

週刊新潮 2018年7月5日号掲載

特別読物「巨大宇宙船を捕捉? 『第二の地球』候補は40億個! 『国立天文台教授』の『宇宙』最新レポート」より

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