「サムライ」「ニンジャ」ない東京五輪 もっとベタでも(古市憲寿)

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 ツアーに頼らない海外旅行で活躍するものといえば、昔は『地球の歩き方』、今はトリップアドバイザーである。旅行者の口コミで構成されたウェブサイトだが、小さな施設の最新情報まで網羅されていて使い勝手がいいのだ。

『地球の歩き方』も悪くないのだが、何せ情報が古すぎる。最近流行のレストランや、脱出ゲームなどの新しい娯楽にも無関心。さらに小さな街の情報なんて皆無に等しい。トリップアドバイザーなら、世界中ほとんどの街の情報を把握することができる。

 たとえば先日、ドイツのヴォルフスブルクという街に行ってきた。フォルクスワーゲンのテーマパークが有名な街なのだが、『地球の歩き方』の情報はそこまで。リッツカールトンが併設されていることも、そこにアクアという有名レストランがあることも無視。だけどトリップアドバイザーならこうした情報はもちろん、最新のレーザーサバイバルゲームのできる施設があることまで教えてくれる。

 さて、このトリップアドバイザーを通すと、日本はどう見えるか。

 東京のページを見てみると、観光スポット1位はえびす屋という浅草の人力車ツアーや、コスプレをして街を走る公道カートなどのシティツアー。人気ランキングからは、ツアーや料理教室など、体験型アクティヴィティの人気が高いことがわかる。

 他にも、上位には意外な施設がランクインしている。たとえばサムライミュージアム。新宿歌舞伎町に位置し、甲冑や鎧の展示はもちろん、殺陣ショーの見学やコスプレ体験もできる。

 少なくともトリップアドバイザーを見る限り、訪日外国人が日本で楽しんだものは、サムライをはじめとしたベタな日本だということがわかる。

 聞く話によると、今度の東京オリンピックはサムライやニンジャといった、いかにも日本的な要素を排した演出が考えられているらしい。しかし「おもてなし」の基本は、自分たちの価値観を相手に押し付けるのではなく、相手が欲しいものをきちんと提供してあげることだ。ベタな日本をもっと活用したらいいのに。

 サムライが嫌ならこんな案もある。トリップアドバイザーによれば、東京の娯楽施設1位はアキバフクロウだという。フクロウと触れ合えるカフェで、外国人からも絶賛の口コミが並ぶ。

 そういえばオランダの知人から熱心に「まる」の魅力について語られたことがある。「まる」、知ってますか? YouTubeで人気のデブ猫である。このように海外でも人気の日本人ならぬ「日本猫」が増えているのだ。

 労働力を無償のボランティア頼みにしたり、開催期間中はネット通販の利用自粛を呼びかけるなど、とかく評判の悪い東京オリンピック。僕はもとからスポーツ嫌いなので、オリンピックに大きな興味はない。だけど猫が活躍するとなれば話は別だ。そんなオリンピックなら熱心に見ると思う(彼らがどう活躍できるかは知らない)。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著書に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など。

週刊新潮 2018年8月2日号掲載

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