「受刑者の20%は知的障害者」 日本では刑務所が福祉施設化というリアル

社会2018年7月20日掲載

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万人に開かれた「最後のセーフティーネット」はムショ

 中度の知的障害を持つ男性が、車のダッシュボードに置かれていた30円を盗んだ。裁判の結果、懲役3年の実刑判決が下った。この司法判断を、あなたはどう評価されるだろうか――?

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 男性は小学校低学年ぐらいの精神年齢。ある時、たまたま通りかかった車の窓が開いていた。見るとダッシュボードには10円玉が3枚。つい取ってしまうと、車の持ち主が目撃していた。

 持ち主は「何やってんだ!」と怒鳴る。だが知的障害を持つ男性は微笑を浮かべ、逃げようとはしない。逆に恐怖を感じた車の持ち主は、警察に通報した。逮捕されると、似た事件を起こしている“累犯者”だと判明。「常習累犯窃盗罪」という罪名がつき、再犯なので執行猶予なしの実刑判決。そして男性は、刑務所に入った。

 この事例は、ジャーナリスト・山本譲司氏(55)の新刊『刑務所にしか居場所のない人たち 学校では教えてくれない、障害と犯罪の話』(大月書店)で描かれている。

 筆者の山本氏は早稲田大学を卒業後、菅直人衆議員議員(71)の秘書を務める。1989年に都議会議員となり、さらに96年の衆議院総選挙では東京21区(日野市、立川市など)から立候補して当選、2000年には再選を果たす。

福祉の現場からノンフィクションを発表

 だが、政策秘書給与の流用が発覚。同年9月に東京地検特捜部が詐欺容疑で逮捕。衆議院議員を辞職するが、01年2月に懲役1年6か月の実刑判決が下る。すると山本氏は控訴を取り下げ、栃木県黒羽刑務所で服役することを選ぶ。

 文字通り「エリートの転落」だが、話はこれで終わらない。出所した山本氏は、03年にポプラ社から『獄窓記』(現・新潮文庫)を出版。自分の体験を静謐に綴った著作は、本人の意図を超え、社会的な文脈で読み解かれて高い評価を受ける。

 その理由の1つが「刑務所における高齢者、障害者問題」という、隠れていた大問題を提示したことにある。

 山本氏は福祉の世界で働きながら、ジャーナリストとしても活躍。『獄窓記』で注目を集めたテーマは、06年に上梓した『累犯障害者』(現・新潮文庫)に結実する。こうした経緯の中に前掲の新刊が位置づけられるわけだ。

 では、その冒頭で描かれた、山本氏が刑務所で経験したエピソードも紹介させてもらおう。

《「あのお金は、お母さんが神様にあずけたんだ。それを返してもらっただけ。だから、僕は悪くないよ!」
 刑務所で出会ったAさんは、いつもこう言っていた。彼は20代後半の男性。二度の窃盗罪で、2年6か月の懲役刑に服していた。窃盗罪で懲役刑なんて聞くと、けっこうな大金を盗んだんだろうって思うかもしれないね。
 でも、彼が盗んだのは合計300円。神社で賽銭どろぼうをしてしまったんだ》

賽銭どろぼうの意外な「犯行動機」

 山本氏によると、A氏は軽度の知的障害者だったという。両親は離婚し、母親と2人暮らしだった。初詣に行くと、母親は賽銭箱に1000円を入れ、「神様にお金を預けているんだよ。困ったときに、きっと助けてくれるからね」と言っていた。

 だが母が病死してしまう。親戚もいないため、A氏は自活を迫られる。しかし障害のため仕事は続かず、否応なしにホームレス生活を強いられる。

 苦しい日々に、A氏は母親の言葉を思い出す。「神様に預けておいたお金で助けてもらおう」と母親と初詣で訪れていた神社に向かい、賽銭箱をひっくり返す。盗んだのは200円。目撃者が警察に通報して逮捕される。

 初犯のため、執行猶予付きの判決が下る。裁判官はA氏に反省と再生を求めたが、彼は「外に出られたのなら、悪いことではなかった」と判断。再び賽銭箱から100円を盗んで逮捕。今度は執行猶予中の再犯として実刑判決が下る。2年半にわたって服役することになり、そこで山本氏と出会ったというわけだ。エピソードを結ぶ山本氏の描写は極めて印象的だ。

《Aさんのような軽度の知的障害者は、人から言われれば、身の回りのことはできるから、一見、障害がないように見える。だけど、善悪の区別がどこまでついているかはわからない。
 二度目の裁判で、彼は裁判長に向かってきっぱりと言ったよ。
「まだ700円、神様に貸している」
 その言いぶんは聞きいれてもらえなかった》

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