「受刑者の20%は知的障害者」 日本では刑務所が福祉施設化というリアル

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現実を知って目を輝かせた大学生

 本文には相当数の漢字にルビがついているが、引用では省略した。文体から感じた方も多いだろうが、小学生や中学生を読者として意識したスタイルだと言える。山本氏に刊行の経緯を訊いた。

「今、月の半分は『社会復帰促進センター』という半官半民の刑務所で、障害者や高齢者の受刑者に対して、所内処遇や社会復帰支援のお手伝いをしています。また2006年にはメンバーとして、厚生労働省の『罪を犯した障害者の地域生活支援に関する研究』という研究班を立ち上げ、調査や提言を行いました。ありがたいことに、『獄窓記』や『累犯障害者』の影響もあり、ようやく厚生労働省もこの問題に目を向け始めてくれました。そして現在、罪を犯した障害者を取り巻く環境は、隔世の感がするほど改善されてきています。でもやはり、福祉の当事者の意識は、まだまだ変わっていません。実のところ、この新刊を書くにあたっては、ある福祉系の大学に講師として招かれ、2コマの講義を受け持ったことがひとつのきっかけとなっています」

 そもそも「刑務所は社会の縮図」とも言われる。さらに山本氏は、衆議院議員の時から福祉政策を専門としていたにもかかわらず、刑務所で現実を直視して猛省したという大きな体験がある。当然ながら講義では、刑務所における障害者の問題を丁寧に説明していったのだが、1時間目が終わって休み時間になると、教授が耳元で囁いた。

「『すいません、学生には福祉に対して夢も希望もあります。刑務所にいる障害者の話なんか、もうやめてもらえれば……』と批判的な言葉を向けてこられたんですね。専門家として長い間、福祉に関わってきた人として、後ろめたさもあったんじゃないでしょうか。ならばと2時間目は、予定を変更して、売春組織やAV業界、暴力団などにおける知的障害者の状況を詳細に説明したんです。そうすると、みるみるうちに学生の目が真剣になっていくんですね。私の講義に食いついてくれたんです」

逆に刑務所より対応が遅れている福祉

 山本氏が出所して16年が経ち、刑務所での障害者に対する処遇改善は進みつつあるという。だが逆に、福祉の現場では対応が遅れている。言いにくそうな教授の発言からも、そうした状況が垣間見える。

「率直に言って、重度の障害者に対する福祉が“美しい仕事”として評価される一方、累犯障害者に対しては見て見ぬ振りをしてきた、という福祉の現実を否定できません。私の著作が『犯罪の被害に遭う障害者ならまだしも、犯罪を犯す障害者のことは書いてほしくない』と福祉関係者に抗議されたこともあります。しかし私は、福祉からも見放され、30円や200円を盗んで刑務所に入る知的障害者こそが、最大の被害者だと考えています。刑務所が福祉の代替施設として機能しているのは間違っています。刑務官の皆さんは、福祉施設で研修を受け、障害者のケアなどを学び、刑務所に戻って活かしたりしています。感動的な姿だとは思いますが、やはりおかしい状況でしょう。こうした現実を小学生や中学生といった若い人たちに知ってもらいたいと、版元にはこちらから『専門書的なものではなく、子供でも読める本にしたい』と提案させていただいたんです。理由は簡単。やはり福祉や刑務所だけではなく、この問題に対する社会全体の意識が変わらなければ、本当の意味での問題解決にはならないと考えたからです」

 朝日新聞の書評に取り上げられたことなどもあり、売れ行きも好調だという。意図した10代に限らず、大学生や社会人など、広範な読者を獲得しているようだ。

 この本では、データ部分でもリアルな現実を提示する。我々の思い込みは完全にひっくり返される。一部を紹介させていただく。

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