「IT社長」という分類、古くないですか(中川淳一郎)

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 石原さとみはライブ動画のネット配信サービス「SHOWROOM」の前田裕二社長と、剛力彩芽はアパレル通販サイト「ZOZOTOWN」を運営する「スタートトゥデイ」の前澤友作社長と、元AKB48・小嶋陽菜はスマホアプリ制作会社「ピックアップ」の宮本拓社長と交際していると報じられました。

 キーワードは「IT社長」です。メディアは「IT社長はなぜ美女にモテるのか」みたいな企画を作り、SNSでは「オレもIT社長になりたい!」という一般ユーザーによる怨嗟の声が多数書き込まれました。

 でも、「IT社長」って言い方古くないですか? 堀江貴文氏(ライブドア)や三木谷浩史氏(楽天)、藤田晋氏(サイバーエージェント)が出始めた2000年代前半の時代は「IT社長」でもシックリきました。当時ITを駆使する企業は少なかったからです。

 堀江氏は元々「オン・ザ・エッヂ」でホームページ制作をした後に、ネットサービスプロバイダのライブドアを買収し多角経営にしました。現在は堀江氏も離れ、LINE社になっています。楽天はネットショッピングモールで、サイバーはネット広告代理店を原点としています。その後サイバーはアメブロやAbemaTVをはじめ、メディア事業やゲーム・金融事業を積極的に進め、楽天は旅行や金融、カード事業も熱心に行うほか、携帯電話の事業開始も目指しています。

 ITに軸足を置きつつも、かつての「IT企業」的イメージを超える発展を果たしました。だから今やLINE、楽天、サイバーを「IT企業」と呼ぶのは大雑把過ぎて違和感がある。

「ネットを活用しているから“IT企業”」という雑な分類がこれまでは通用してきましたが、もはやインフラとなったITを企業分類に使用している場合ではないでしょう。1980年代、電話で営業をしまくっていた会社を「電話系企業」なんて呼んでいないのと同じです。

「通販生活」のカタログハウスや「ジャパネットたかた」は依然として「通販会社」と呼びます。でも、彼らのネット活用は十分かつての「IT企業」レベルにある。ビックカメラやヨドバシカメラは「家電量販店」と呼びますが、彼らのネット通販事業だって相当な売り上げがあります。

 このように、今やほとんどの企業がITを活用しているわけですから、いい加減20世紀後半から21世紀初頭の「来てるね、未来!」みたいなダサい分類、やめませんか? そして、そうした会社の経営者のことを「IT社長」という「若くてギラギラしていて金持ちでイケメン」みたいなレッテル貼りで呼ぶのも古い。

 企業によるIT活用が当たり前になった時代、冒頭で登場した前田氏は「ロケ派遣業社長」「中継請負業社長」です。前澤氏は「アパレル会社社長」で宮本氏は「ソフト制作会社社長」です。彼らが「IT社長」なら、ニュースサイト「デイリー新潮」を持つ新潮社の佐藤隆信社長も「IT社長」ですか?

 どうも昨今の「IT社長」が異世界の妙な人々であるといった報道・世間の反応を見るにつけ、一応はIT業界の人間である私など「分類が雑過ぎるだろ、喝だ!」と張本勲さんのように言いたくなるのでした。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんしゅうきつこ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2018年6月21日号掲載

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