63億円を取られた「積水ハウス」 詐欺から1年、背景に地面師と暴力団の影

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 積水ハウスが巨額の地面師詐欺に遭ってから約1年。犯人は、いまだに捕まっておらず、それどころか同社では責任を追及した会長がクビになるという内紛も起きる始末だ。が、ここに来て取引に関わったある「兄弟」が浮かび上がってきた。2人の意外な素性とは。

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 ある時は大手航空会社のパイロット、またある時は小児科医など、エリートになりすまして、相手から数百万ドルを騙し取る――「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」は実在の詐欺師をモデルにした映画だが、最後に犯人は逮捕され改心する。

 ところが、昨年、積水ハウスが63億円(実際には55億5900万円)もの大金を騙し取られた事件は、いまだに犯人が捕まっておらず、その正体も分かっていない。それどころか、責任の所在を巡って、同社トップが解任されるというドタバタ劇まで起きた。

 改めて事件をおさらいしておくと、詐欺の舞台になったのは、東京・品川区西五反田の老舗旅館「海喜館(うみきかん)」である。

「ここはJR五反田駅に近く、広さも約2000平方メートルある都内有数の一等地。昨春、所有者になりすましたA子という女性が、ブローカー(IKUTAホールディングス)を通じて積水に約70億円で売りたいと持ち掛けてきたのです。これに積水は飛びついた。取引は、4月と6月の2回に分けて行われ、A子→IKUTAホールディングス→積水ハウスという形で売買が行われました。ところが、いざ積水が所有権移転登記をする段になって、書類が偽物であることが発覚。A子も偽者だったことが分かったのです」(社会部記者)

 時すでに遅し。積水が騙されたことに気が付いたときには、代金は支払われてしまっており、A子は姿をくらましていた。取引の間に入ったIKUTAホールディングスも、登記上の所在地に事務所もない会社だ。

 捜査関係者が言う。

「積水ハウスは典型的な地面師詐欺にはめられてしまったわけです。取引のバックには印鑑証明などの書類の偽造や、なりすましの所有者を仕立てあげる数人の詐欺師グループが関わっている。おそらくA子も “端役”に過ぎません」

 積水ハウスにもおかしなところがある。契約締結後に「積水は騙されている」という文書が内容証明郵便で4通も届いているのに、これを無視。また、生年の干支を間違えるなど、A子の話が明らかに怪しかったのに、上層部は買収を急いだ。

「その一方で積水ハウスは、A子に中野区の新築マンション11戸を約7億6000万円で売る契約を交わしています。“大金が入って来るのだから、マンションでも買っておいてはいかがですか”と勧めたのです。この7億円余は、うまくすれば積水ハウスの誰かが自由にできた可能性がありますが、結局は留保金として処理したとも考えられます」(同)

 かくして、欲に駆られた人間たちが入り乱れ、誰が真犯人なのか分からないまま1年近くが過ぎてしまったわけである。ところが、ここに来て、ある人物の存在が浮かび上がっている。後で説明するが、苗字は「小林」と書く。

 昨年3月中旬のとある日、江東区の清澄白河駅からほど近い有名焼肉店に5人の人物が集まっていた。積水ハウスが騙される1カ月ほど前のことだ。

「参加者はIKUTAホールディングスのオーナーと同社の女社長、ブローカー2人とそれに小林氏でした。小林氏はIKUTA社の『エグゼクティブアドバイザー』という名刺を持っていた。当時、海喜館の買い手がなかなか決まらず、売却話を持ちこんだ人物が、他に持って行こうとしていたのです。そこで、買い手が見つかるまで待ってもらうための対策を話し合ったわけです」(ブローカーの1人)

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