「改革が弱い者いじめになってはいけない」  勝海舟の名言を磯田道史氏が解説

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 セクハラ問題は論外だが、公文書改竄問題に代表されるように官僚システムへの信頼が揺らいでいる。これは今に始まった問題ではない。

「霞が関を改革すべきだ」という声が強まるのも必然なのだが、そもそも今回は政治主導で「改革」したことの弊害も同時に現れているように見える。

 メディアも野党も、そして往々にして与党も常に「改革」の必要性を唱え続けているものの、受け止める側は冷めたもの、あまり共感を得られなくなっている――現状はこんなところだろうか。

 一方で、国民的な人気を誇る「改革」が明治維新だろう。明治維新とは巨大な行政改革だったともいえる。

 その立役者の一人が勝海舟(かつかいしゅう)なのは言うまでもない。
 
 では、彼は「改革」についてどう考えていたか。江戸時代以降の偉人、賢人たちの名言を集めた、磯田道史氏の著書『日本人の叡智』では、勝海舟が行政改革について語った名言が紹介されている。磯田氏の解説とともに、その部分を全文ご紹介しよう。

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「行革といふことは、よく気を付けないと弱い者いぢめになるヨ」(勝海舟)

 勝海舟は「世の中に無神経ほど強いものはない」。庭先の蜻蛉(とんぼ)を指さし「あの蜻蛉をごらん。尻尾を切っても平気で飛んで行くではないか」といった。白刃のなかを切り抜け、幕府の始末をつける大仕事をした彼は、難局にあたる時の無神経の大切さを説いた。

「人間は難事に当たつてびくとも動かぬ度胸が無くては、とても大事を負担することは出来ない。今の奴(やつ)らは、ややもすれば、智慧(ちえ)をもつて、一時逃れに難関を切り抜けようとするけれども、智慧には尽きる時があるから、それは到底無益だ」。

 智慧より度胸だと勝はいう(『氷川清話』)。

 政治とは何か。

〈天下の大勢を達観し、時局の大体を明察して、万事その機先を制するのが政治の本体だ……この大本さへ定まれば、小策などはどうでもよいのサ〉。

 大胆に先手を打つのが政治。

 後手にまわって小策を弄(ろう)する平成の今、勝が総理だったらどうするか。そんな空想が頭をよぎる。

 彼は行革は弱い者いじめになりやすいといった。

〈全体、改革といふことは、公平でなくてはいけない。そして大きい者から始めて、小さいものを後にするがよいヨ。言い換へれば、改革者が一番に自分を改革するのサ〉。

 この言葉からすれば、おそらく勝は、議員→公務員→国民の順で負担を求めるのではないか。地位の高い順に政治家や役人から改革を迫るのが彼の思想だ。

「政治の善悪は、みんな人に在るので、決して法にあるのではない……人物がでなければ、世の中は到底治まらない」と彼はいう。そんな政治家はどこにいるのか。〈人材などは騒がなくつても、眼玉(めだま)一つで何処にでも居るヨ〉。これも勝の言葉である。探すのは我々だ。

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 近年の「改革」論議が今一つ世間の共感を呼ばないのも、「まずは議員から」という視点が欠けているからかもしれない。明治維新から150年、勝海舟の言葉を政治家はどう受け止めるだろうか。

デイリー新潮編集部

2018年6月4日掲載

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