愛犬にはウナギも与えていた 「西郷どん」の行き過ぎた犬好きエピソード

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 連想ゲームで「西郷どん」と言えば、少なからぬ人が「犬」と答えるのではないか。上野の銅像のおかげで、それくらい西郷隆盛と犬との関係は有名だ。 

 実際、西郷は西南戦争の戦場にも連れて行ったほどの犬好き。

 歴史家の磯田道史氏は、新著『素顔の西郷隆盛』の中で、

「犬こそ生涯の友というか、西郷自身が犬になっているような関係で、ちょっと普通ではありません」

 とまで評している。

 大河ドラマ「西郷どん」の時代考証もつとめた磯田氏は、同書で西郷の行き過ぎた愛犬家ぶりを示すこんなエピソードを紹介している(以下、引用は『素顔の西郷隆盛』より)。

「祇園新地の名妓、君龍の証言によると、西郷は維新の最中の京都にいた際、宴席にも犬を上げていたといいます。

 連れていた犬はトラといって、将軍・家斉がオランダからもらったオランダ犬の血統で、西郷は草履履きでこのトラを引いて茶亭に上がり、食をとるのが例となっていました。

 他の人たちは芸者に酌をさせながら長々といるのに、西郷は茶亭に犬と一緒にやって来て、『犬にウナギを出してやってくれ』と言って、犬と一緒にウナギをおいしそうに食べるとさっさと帰って行った」

 完全なマナー違反という気もするが、そこは人物というものか、目の当たりにした君龍は、「西郷さんの所作はまことに粋の中の粋を知ったお方、歴々の中の一番お偉い方様と伺いました」と語っている。

 犬とウナギをめぐる話はまだある。鹿児島城下、上町の八坂神社の近くに一軒のウナギ屋があった。店主の名は平田源吉という。

 ある秋の夕暮れ、厚木綿に狩羽織をつけて、腰に小刀を差した太った男が犬を引きながら店にやってきた。この客が西郷なのだが、平田はそんなことは知らない。

「1皿ウナギをやってくれ」と客が言うので、平田は安いウナギの尻尾を1、2個焼いて出した。山奥の猟師だろうくらいに思い、少々なめた対応をしたのだ。

 嬉しそうに犬にウナギを食べさせた西郷は代金を払って出て行った。半紙に包まれた代金を見て平田は驚く。5円札が入っていたのだ。今なら15万円ぐらいというから大金である。

 そこでようやく平田は、あの客はただものではない、と気づき、後を追う。途中、神社の神主が「それは西郷先生だろう」と教えてくれた。

「神主の入れ知恵で、平田は5円札が入った神包みを持って西郷の家に行き、『申しわけありませんでした』と謝った。

 すると西郷が笑って、『いや、正直な男じゃな』と言って手作りの大根を5、6本くれたという話です。

 実は話はこれで済まなくて、平田は後に西南戦争で西郷が上京する際、正直さを買われて西郷の料理番になりました。当時、西郷の周囲は新政府による暗殺をかなり危惧していて、鹿児島人だらけの陣中に誰かが買収されて入り込まないとも限りませんでした。毒殺などされないよう、平田は毒味をしながら西郷の食べ物を管理していたのです」(同)

 犬に御馳走を与えるだけだと、単なる「親ばかだ」で終わりそうだが、そうならないのが西郷の器ゆえだろうか。

 磯田氏は、西郷について「おわりに」でこう評している。

「西郷という男の強烈な個性をもってしなければ、新しい日本は生まれませんでした。西郷が現在の日本国家のもとを作ったのであり、新国家を作るために、徹底した破壊を断行しました。

 制度設計として、江戸幕府を残してはいけないという激しい考えのもとに、維新をすすめ、今の日本の原型が形づくられました。

 この愛すべき異端児・西郷が建てた国家で今なお私たちは暮らしているということを忘れてはならないと思います」

デイリー新潮編集部

2018年4月1日掲載

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