テレ東「二軒目どうする?」出演 加藤ジャンプが推薦する「コの字酒場」3店

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絶品の南蛮漬けと塩モツ煮込み

 ここ数年「サードプレイス」という言葉をよく耳にする。アメリカの社会学者レイ・オルデンバーグによれば、自宅や職場とは別の居心地のいい第三の居場所の意味する言葉だ。

 このサードプレイスには、いくつか定義があるが、ヨーロッパでいえばカフェなどがそれにあたる。老人が朝っぱらから新聞を読みふけり政治談議をし、ブリッジに興じているアレだ。これがコミュニティの活気の中心になる、という。

 欧州のカフェにくらべ日本の喫茶店はどちらかというと孤独を愛する空間である。だからコの字酒場こそは、日本のサードプレイスの最たるものだと思うが、それを感じさせるのが、町田の「初孫」である。

 小田急線とJR横浜線が交わる町田駅は、多摩地域有数の繁華街である。賑やかな表通りを1本入ったところに、このコの字酒場はある。狭い戸口をくぐると、店の中一杯のコの字カウンターがある。このカウンターは2段になっていて上の段にはその日使う素材やあらかじめこしらえた肴が並べられている。

 コの字酒場も後継者がいなくて廃業するケースが多々あるが、こちらを営むのは創業者の息子である2代目である。都心を離れるほど地域への密着度は高まる。サードプレイスもまた、いつもそこにある、ことが肝要だが、初孫はその条件にぴったりと当てはまる。くわえて、歴史を引き継ぎつつ、代を重ね生まれ変わり新たな歴史を刻んでいる。

 なにより、どこに座っていても、旨そうな料理と手際のいい主人と居並ぶ感じのいい酔眼を眺めつつ杯を重ねられるのがいい。これもコの字型のカウンターの妙である。それを最大限にいかしているのがこの店だ。

 南蛮漬けは季節の魚で作られ、ほどよい酸味が困るほど旨い。海から遠い多摩の店だけれど、刺身の質が高く、盛り合わせはいつも惚れ惚れする出来栄えだ。塩モツ煮込みは、ネコも杓子も「塩味を好むほうが通」めいた風潮が盛んになる前から、この店では作っていて、これがまた滅法旨い。

 そして、店名である山形の銘酒「初孫」の旨い酒が大概揃っている。英文学者で酒好きの吉田健一が「風呂に入っているような気分になる」(『舌鼓ところどころ』)と書いていた銘酒である。いつ飲んでも心まで洗われるように旨い酒だ。

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