バイプレイヤーズ最終回で大杉漣を偲ぶ(TVふうーん録)

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 私の夫は若い頃、役者をやっていた。2時間モノやVシネ系で名もなきセリフもなき役を数多く。昔ある現場で、同じく名もなき役だった役者の先輩から、撮影後に誘われたという。「まだ昼間だから、お茶でもどう?」と喫茶店へ。その先輩は「お互いに頑張ろうね」と、芽が出そうにない夫を励ましてくれたそうだ。生き馬の目を抜く厳しい役者の世界では珍しく、優しくていい人だったという。20年以上前のこと。先輩はその後、映画にドラマに引っ張りだこの名バイプレイヤーとなった。大杉漣である。

 この連載を始めて、ドラマのことばかり書くようになって、気づいたことがある。大杉漣は、どの局でも毎クール必ず姿を観た。多過ぎ漣、働き過ぎ漣、とひそかに思っていた。そっちもこっちも大杉漣。絵に描くと、漣連続になるから控えようと思うことが何度もあった。まさか急逝するなんて。ご冥福を祈ります。

 一視聴者として勝手なことを書かせてもらうが、大杉漣は幸せだったと思う。大好きな役者仲間と気心知れたスタッフに囲まれて、テレ東「バイプレイヤーズ」の撮影中に息を引き取るなんて、最高じゃないか。最後まで撮影できなかったことは悔やまれるし、本人も心残りだとは思う。でも、最終回は納得のいく出来だったよ、と報告したい。

 朝ドラ「しまっこさん」撮影のため、離島に入るも、大杉の船でうっかり島の反対側に到着してしまった5人。そこは野生の猿が牛耳る未開の地。20日間のサバイバルを経験し、撮影陣とようやく合流するも、5人の役はすべて代役起用ですでに撮影が始まっていた。

 仕方なく「島おじさんたちと島ママ(遠藤憲一だけ謎の女装)」という脇の脇に徹することに。セリフは基本「そうだ、そうだ」。画面で見切れそうな位置に入り込むのみ。テレ東がNHKに対抗して朝ドラに挑戦するも、金と時間とスタッフの不足、諦観とやけくそ感で現場は疲弊。主役の本田望結から舌打ちされたり、トンデモ演出に付き合わされた挙句、カットされたりと、名バイプレイヤー5人の扱いは超絶雑に。それでも腐らない。共同生活を続けつつ、役者魂を見せてくれる5人という設定だ。

 本人役を演じるドキュメンタリードラマは、演技と素顔の境界線がわからなくて新鮮だし、よくぞここまで多忙な5人を集めたなと思う。テレ東ブラボー。

 器用で面倒見のいい松重豊は家事全般を押し付けられる。何があっても怒らない仏の光石研は緊急時に狡さも見せつつ、大御所・里見浩太朗にいじられまくる。神経質で小心者の遠藤憲一はハムスターで心を癒し、田口トモロヲは目を離すとシモネタに走る、明るい変態として場を和ませた。そんな4人を頼りないリーダーとしてゆるっと束ねつつ、他の役者やスタッフも含めて、全方位に細かく気を配っていたのが大杉漣だった。

 5人が海から出てくるオープニング映像に繋がる最終話。かっこよかった。泣けた。大杉漣のバイプレ魂は、役者にもドラマ界にも視聴者にも伝わったと思う。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2018年3月22日号掲載

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