食べものだけで余命3カ月のがんは消えない! 「がん食事療法本」が「がん患者」を殺す

ライフ週刊新潮 2017年8月31日号掲載

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病勢制御率のまやかし

『今あるガンが消えていく食事』シリーズ(済陽高穂(わたようたかほ)/マキノ出版)も、ゲルソン療法をアレンジして展開する方法を採っています。

 両著書に共通するのは「言ったもの勝ち」。試験管の実験でも動物実験でも権威者の言説でも、都合が良ければ何でも取りこんでしまいます。一方、ヒトを対象にした信頼できるデータはほとんど登場なし。例えば、著者の「済陽式ゲルソン」では四足歩行動物(牛、豚、羊)の肉食を禁じています。理由は、ラットに動物性タンパクを過剰に投与すると肝臓に前がん病変リスクが高くなるという実験データがあるから、と。

 確かに「がん予防」という観点では赤肉・加工肉(ハム・ソーセージ)の過剰摂取は、大腸がん罹患リスクとして確実視されています。とはいえ、これも程度問題。欧米諸国と比較して、日本は赤肉の平均摂取量が最も低い国のひとつですし、賢い読者であれば予防と治療とでは全く違う話だとおわかりのはずです。

 著者のプロフィールを見ると、4000例の手術を手がけた外科医という背景があるので信頼も得られやすいのかもしれませんが、これまでまともな医学論文を書いた形跡がありません。

 ところで、この本には済陽式療法の成績が示されています。対象はほとんどがステージ4の進行がんで420例のうち57例は完全治癒。全体の有効率は61・2%。胃がん56・6%、大腸がん66・4%、前立腺がんは76・3%、乳がんは67・9%、悪性リンパ腫は86・7%。ここでは割愛しますが、ドラマチックな体験談も数多く示されています。

 これらがもし本当の話ならば、人類のがん克服に貢献するノーベル賞級の業績だと言えます。当然、学術論文として報告し、世界中の患者さんに届けようと努力をすべきなのに、そうしないのはなぜでしょうか。

 済陽氏のクリニックに行かないと効果を発揮しないモノは医療ではなく、やはり「何かがおかしい」わけです。先の星野式も含め、ゲルソン療法中には様々なトラブルが発生します。がん患者さんに肉を禁じ、大量の野菜ジュースを毎日飲むことを強いるわけですからそれも当然。彼らの本の中に登場してくる体験談は、標準治療が著効した都合のよいケースであり、たまたまゲルソン療法中だっただけではないでしょうか。

 最後に紹介する『ケトン食ががんを消す』(古川健司/光文社新書)の帯には「世界初の臨床研究で実証! 末期がん患者さんの病勢コントロール率83%」と書かれており、多くのメディアでも華々しく取り上げられました。しかし、この本に書かれているデータを見て、ケトン食のがん治療効果を実証できたと結論づけてしまうのはかなり問題です。

 古川氏は2016年の日本病態栄養学会において、「ステージ4進行再発大腸癌、乳癌に対し蛋白質とEPAを強化した糖質制限食によるQOL改善に関する臨床研究」という題で結果を発表したようです。しかし抄録を見ると、大きながん関連学会での採用は難しい印象を持ちました。臨床研究と仰々しくは言っても、あくまでもQOLについて「自身の興味のあることを調べてみたら結果はこうだった、だからこういうことが示唆される」程度のもの。もともと抗がん剤がよく効く大腸がんと乳がん患者を都合よく選択して、標準治療とケトン食を併用した、わずか十数例ほどの体験談を綴っているだけです。

「病勢コントロール率83%」は、ケトン食を用いなくても進歩した抗がん剤のみで十分に得られる成績のはず。なぜ標準治療も一緒に行っているのにケトン食の効果だと言えるのでしょうか。そして、世界初の実証というからには、先ずは英語で学術論文の形にして客観的に評価を仰がなくてはいけません。

 最後に、インターネット上に横行する虚偽・誇大広告を禁ずる改正医療法が2017年6月の国会で成立しました。「免疫力でがんを治す」と謳う医療施設ホームページの大部分がこれに抵触することになります。ただ、そのような対処はあくまでも広告のあり方に対するもの。目下、日本では倫理やモラルの観点からエセ医学そのものを裁くような法的規制はなく、先進諸国の中で最もインチキに寛容な国であることに変りはないのです。

 ***

※週刊新潮編集部より

「週刊新潮」2017年8月31日号に掲載した本記事に対し、『がんが自然に治る生き方』の出版元であるプレジデント社より、同年8月25日に抗議が寄せられました。
(プレジデントオンライン「週刊新潮2017年8月31日号の記事について」http://president.jp/articles/-/22966)

 これを受け、週刊新潮編集部は同年9月18日付でプレジデント社へ回答書を送付しましたが、以降、プレジデント社からの応答はなく、上記プレジデントオンライン記事には〈新潮社からの回答はありません〉と表示されたままでした。

 週刊新潮編集部が回答を掲載するようプレジデント社に要請したところ、2018年1月24日に〈指摘に対する有効な反論となっていないと判断し、掲載しません〉と一方的な追記がなされました。

 週刊新潮編集部は記事に絶対の信頼性を持っており、またプレジデント社の抗議内容にはすべて反論ができていると考えます。プレジデント社への回答内容については「デイリー新潮」にて掲載いたします(https://www.dailyshincho.jp/article/2018/01300804/)。併せてお読みください。

大場大(おおば・まさる)
東京オンコロジークリニック代表。1972年、石川県生まれ。外科医、腫瘍内科医。医学博士。東大医学部附属病院肝胆膵外科助教を経て、2015年、がんのセカンド・オピニオン外来を主とした「東京オンコロジークリニック」を開設。著書に『がんとの賢い闘い方「近藤誠理論」徹底批判』(新潮新書)、『大場先生、がん治療の本当の話を教えてください』(扶桑社)などがある。

特別読物「食べものだけで余命3カ月のがんは消えない! 『がん食事療法本』が『がん患者』を殺す――大場 大(東京オンコロジークリニック代表)」より

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