養老孟司×塩野七生 2人あわせて160歳「余計なお世話で生きてるだけ」

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『遺言。』『新しき力』刊行記念 養老孟司×塩野七生 私たちの「物書き人生最終章」(下)

 現在の“おかしさ”を浮き彫りにした新書『遺言。』を書き下ろした養老孟司さんと、最後の歴史長編『新しき力』を著した塩野七生さんは、共に御年80歳の「同級生」である。出版を記念して行われた対談では、“最近の禁煙運動”“作家には「よそ者」性が必要”そしてお互いの“来し方”といったざっくばらんな話題が語られた。

 この対談の(上)はこちらから読めます

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塩野 『遺言。』を読んで養老さんに聞きたいなということがあったんです。最近、話題のA・I。あれは一体、何ですか。

養老 そう思いますよね。

塩野 つきつめればデータということでしょう。でも「ギリシア人の物語」で書いたペルシア戦役だって、もし事前にデータを集めていたらペルシア側が勝つという予測が出たはず。それでもギリシア側が勝てたのは、ギリシア側の武将テミストクレスが過去のデータにないことを思いつくことができたから。アレクサンダーもそう。ギリシアは劣勢の状態から勝ってしまったんですよ。

養老 うんうん。

塩野 人工知能によってヒトは職を奪われると言われているけれど、私はちっとも怖くありません。塩野七生はデータ化不能なものを扱っているから。だってギリシアの歴史も理論上はウィキペディアを集めれば書けないわけではない。でも「書けるものなら書いてご覧なさい」と思うのです。だって歴史はデータにできないものに突き動かされて書くものだから。

養老 そうなんです。この本にも書きましたが、人間の意識がある時間は、1日の3分の2しかないし、その前後だってだいぶ怪しい。お酒を飲んだりすればあやふやになったりするでしょう。にもかかわらず、その意識を絶対視して、人間にとって一番最後に進化してきた部分だけをAIにしているんですよ。だからものすごくたくさんのものが欠落している。AIの中には0か1しかない。0と1の間には無限があるけれど、それはコンピュータからしたらノイズなのです。AIが処理できない存在です。

塩野 そうか、塩野七生が考えることもノイズということね。

養老 だからデジタル慣れした人は、同じ室内にいてもメールで話したりするんですよ。なぜなら対面でやり取りするとノイズだらけで邪魔になるから。

「人間」はどこへ?

塩野 直接話すことは大事よね。国際電話で編集者と話していると、それまで考えつかなかったようなことを思いついたりするんです。編集者は長電話で迷惑かもしれないけど(笑)。私はコンピュータには触らないし、ケータイも持っていないんです。ここまでアナログだと絶望的ですよね。いい加減、始めるべきなんでしょうけれど。

養老 別にいいんじゃないですか。これからはデジタルからアナログに戻る。というよりも、デジタルに対する人間の対応が変わってくるでしょうね。

塩野 グローバル化する世界っていうけれど、一体何がグローバルになったのかしら。相手の顔も見ずに連絡することがグローバルということなのでしょうか。

養老 グローバルというのは、「人間」じゃなくて「システム」に重きを置くということでしょう。

塩野 じゃあ「人間」はどこへ行ってしまうのかしら。

養老 徐々に戻ってくると思いますよ。みんなシステム優先に呆れて、何で生きているのかわからなくなってきていますから。

塩野 飽きますよね。

養老 そうです。

塩野 先の未来の話をしても無駄かもしれない。私たちは一体、いつまで生きるのかしら。養老さんは虫の後を追って日々歩くでしょうから健康的ですよね。

養老 確かによく歩きます。それに、虫の観察は、座禅と似ているんです。長時間、虫の標本を作っていると作業はしているけれども何も考えない。同じ場所に座り込んで手足を動かしているのだから、座禅と同じような効果があるんじゃないかと思っています。これも「非社会脳」ですね。

塩野 そうか! 私にとっては歴史上の人物たちが「虫」なんだ。彼らは文句を言わないから。養老さんは美しい虫を色々お知りでしょう。私の「虫」にも魅力的な虫がいますよ。ペリクレスという虫、アレクサンダーという虫……。だから3年間、日曜日も祝日もなしで書き続けることができたのかな。

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