エイズは「糖尿病より楽」――子作りも可能になった治療の最前線

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啓発の必要性

 現在、世界のHIV感染者数は3670万人で、新規感染者数は年間180万人。国内の累計感染者・患者(発症者)数は2万7000人以上とされ、ここ10年間は毎年1500人前後の新規感染者・患者が報告されている。性的接触により感染する例がほとんどで、累積の感染者・患者のおよそ9割は男性。特に男性の同性愛者に多いといわれる。

 先の井戸田院長によると、国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、〈2020年の時点で、世界中のHIV陽性者の90%が検査を受けてHIVに感染していることを知り、うち90%がHIV治療を受け、さらにそのうちの90%が治療の効果で体内のウイルス量が十分に抑制されている状態〉を目指しているという。

 達成されれば、2030年までに、エイズが「公衆衛生上の問題ではなくなる」水準にまで達するという。

 日本は現在のところそれぞれ85・6%、82・8%、99・1%と推測される。検査や治療開始の点ではやや目標を下回っており、その数値の底上げが課題だ。

 立川医師は、

「若い人にももっと関心をもってほしい」

 と強調した。

「最近、私のところには20代ぐらいの若い感染者の来院が目立っています。あまりエイズの知識が伝わっていないとも感じるのです。マスコミの報道も以前と比べれば、ずいぶん減りました。とにかく少しでも気になることがあれば、検査してほしい。保健所では検査を無料で受け付けていて、匿名でも受けられる。通常約2週間後には確定結果が出ます。検査キットを通販で購入し、自分で検体を採取して返送する方法もあります」

 もっとも、

「課題は他科の医療機関との連携。口腔疾患やがんなど、HIV感染に関連した病気も多いのですが、なお診療に抵抗を抱く医師も少なくないのです。感染者の側も、そうした医療機関には行きにくくなる。医療機関として感染を理解して受け入れて、各々の得意分野で医療を提供してもらえればと願っています」(井戸田院長)

 薬の進歩に比べれば、まだまだ意識の変化は遅れているのが現状か。

 医療問題を軸に議員活動を展開する川田龍平・参議院議員(41)氏は、エイズ問題についてのより一層の啓発の必要性も訴えた。

「社会には偏見や差別がまだ残っており、苦しむ感染者も多い。特に余命が延びた分、高齢の感染者が、介護などを他の人と同様にきちんと受けられるかといった問題も生じてきています。感染をこれ以上、増やしてはいけないのです」

 これも医学の進歩ゆえに生じる課題だろう。

「死の病」だった時代から30年。エイズ治療は新たな局面を迎えているのである。

菊地正憲(きくち・まさのり)
1965年北海道生まれ。國學院大学文学部卒業。北海道新聞記者を経て2003年にフリージャーナリストに。徹底した現場取材で政治・経済から歴史、社会現象まで幅広いジャンルの記事を手がける。著書に『速記者たちの国会秘録』など。

週刊新潮 2017年12月14日号掲載

特別読物「『死の病』との戦いはどう進化したか 子作りまで可能になった『エイズ』治療の最前線――菊地正憲(ジャーナリスト)」より

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