なぜ東大合格生の2人に1人は「ピアノレッスン」経験者なのか 3つの理由を分析

ライフ 週刊新潮 2017年12月7日号掲載

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ピアノを習うと脳に変化が

「脳科学の観点からもピアノの効果は実証されてきています」

 と言うのは音楽ジャーナリストの菅野恵理子さんだ。菅野さんが、テレビでもおなじみの脳科学者・澤口俊之さんを取材したときのことを教えてくれた。

「学習塾、英会話、習字、スポーツ系など、ほとんどの習い事をやってもHQはほとんど変わりませんが、ピアノだけ突出して高い効果が見られるそうです」

 HQとは「人間性知能」のこと。人間性を司ると言われている前頭前野の脳間・脳内操作系の能力の高さを表す。ただしこれだけでは単なる疑似相関かもしれない。しかし、こうも言う。

「2000年に発表された論文で『ピアノの稽古は問題解決能力を向上させる』ことが証明されているそうです」

 8〜10歳の小学生を対象に、ヨーロッパで行われた研究のことである。小学生を2つのグループに分け、一方にはピアノを、もう一方には演劇を、週1回習わせた。4カ月後、8カ月後に問題解決能力を測定すると、ピアノを習っていた集団のほうがその伸長が明らかに大きかったというのだ。

 また、12年にヨーロッパで行われた研究によれば、ピアノを習うことでIQそのものが向上する効果も認められたとのこと。片手で弾くピアニカに同じような効果はなく、両手の動きが全く違うヴァイオリンにはまだ明確な証拠がない。

「ピアノは両手で微妙に違う指の動きをすることと、譜面を先読みして覚えて後追いしながら弾くことに意味があるのではないかという説が有力です。ピアノのレッスンを通じて、脳の構造が良い方向に変わることが実証されている、とのことでした」

現役東大生たちは語る

 ある現役東大生Bさん(男性)は、小学校の低学年でピアノを始め、中学年のころには、近畿地方のピアノのコンクールで上位に入賞した。中学受験をしたが、ピアノだけは6年生の夏ごろまで続けた。サッカー、野球、空手、書道も習ったが、最もやって良かったと感じたのはピアノだったという。

「ピアノとか音楽系をやっていると、指を使ったり、楽譜を読んだりするので、頭を使うからすごく教育にいいみたいなことを聞くんですけど。まさにそれは実感しています。右手の楽譜を見ながら弾くというのと、左手の楽譜を見ながら弾くというのを、同時にやらなきゃいけない」

 別の現役東大生Cさん(男性)は小1から小6まで定期的にピアノを習っていた。今でもときどき思い出したようにピアノを弾く。

「ピアノを定期的に習っているときにはあまり感じなかったのですが、教室をやめてしばらくして、自分一人でやろうとしたとき、左右を同時に弾くってすごく脳が苦しむなと実感したことがあります」

 左右の手の楽譜を同時に見ながら、10本の指を動かすことが、脳に高度な負荷をかけているのではないかと、2人とも実感しているのだ。

 前出の澤口さんは著書『「学力」と「社会力」を伸ばす脳教育』の中で、「読み書き算盤+音楽」で子供の知能をまんべんなく伸ばすことができると述べている。「音楽」については楽器演奏が適当であるとも。そして保育園や幼稚園で最低限、読み書き算盤+音楽は行うべきだと、脳科学の立場から強く訴える。

(下)へつづく

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おおたとしまさ
育児・教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。麻布中高卒、東京外国語大中退、上智大卒。リクルートから独立後、教育誌等のデスクや監修を歴任。中高教員免許を持ち、私立小での教員経験もある。『ルポ塾歴社会』など著書多数。

特別読物「なぜ『東大合格生』の2人に1人はピアノレッスン経験者なのか――おおたとしまさ(育児・教育ジャーナリスト)」より

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