供養よりビジネス優先――名刹「ビル型納骨堂」で起きていた解任トラブル

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供養よりビジネス優先

 ここに至って、コンプラのために後ろに引っ込んでいた好正氏が、前面に出てタイヘイと交渉するようになる。「ハードな交渉は息子では無理」という判断だった。16年に入り、タイヘイ紹介の納骨堂の安値販売業者との折衝に入るようになると、「これ以上、無理な自転車操業を続けていても意味がない」(好正氏)と、支払い行為をストップした。

 当然、タイヘイとの間は険悪になる。好正氏は、返済条件と販売方法の変更をタイヘイと話し合うようになった。返済計画のリスケである。もちろん「和やかな話し合い」であるハズはない。両者の関係はさらに険悪となっていく。

 タイヘイの担当者が、強く出て迫った。

「住職も副住職も個人保証を入れている。お寺を含め、いつでも破産をかけることができるんですよ!」

 好正氏が開き直った。

「やれよ!(破産を)かけられるもんならかけてみろ!」

 両者は完全に決裂、好正氏は納骨堂販売業社から営業譲渡を受ける形で自ら納骨堂の販売を始め、その販売代金を運営費も含めて自家使用してきた。

 この異常事態は、タイヘイが、これまで交渉外だった好秀住職と娘のあぐり氏を取り込むことで一変する。それが今年5月22日の好正・秀芳父子の解任につながった。同時にあぐり氏は、好正氏との連絡を一切、断った。好秀・あぐり父娘の「別離宣言」だった。

 解任の日の様子を秀芳氏が振り返る。

「朝10時過ぎ、タイヘイの担当者と、新たに業務委託契約を結ぶ販売会社のスタッフ約10名が、弁護士同道のうえやってきました。そこに好秀住職とあぐりもいて、いきなり『こんなひどい状況とは知らなかった』『もう任せておけない。タイヘイさんの指示通りに契約するから』といい、契約業務を始めました。弁護士からは『速やかに退去しないと不退去罪になる』と、脅されて追い出されました」

 タイヘイ、好秀住職、あぐり氏など、好正・秀芳父子と対立する勢力にも取材依頼を繰り返したが、それぞれの顧問弁護士から、「一切、お答えしない」と拒否回答があった。

 外壁のきれいなマンション風の納骨堂は、お寺と開発業者と金融業者の思惑が絡むビッグビジネスだ。120億円を見込んだ龍生院・三田霊廟には、その裏側に再起と欲望の人間ドラマが潜んでいるのだが、そのことを知っている納骨堂購入者はほとんどいない。また、こうしたトラブルもあって、三田霊廟が販売した納骨堂は、「私の解任時点で700基に満たない」(秀芳氏)という。

 永代供養が簡略化されるなか、「通うのが楽で費用も安い」という納骨堂は、今後も増えていくだろう。だが、購入を考えている方は気をつけていただきたい。三田霊廟ほどのトラブルは珍しいとはいえ、供養よりビジネス優先の納骨堂には、将来、必ず歪みが生じ、「安眠」は保証されない――。

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伊藤博敏(いとう・ひろとし)
1955年生まれ。編集プロダクション勤務を経て、84年からフリー。著書に『「カネ儲け」至上主義が陥った「罠」』『鳩山一族 誰も書かなかったその内幕』『黒幕 巨大企業とマスコミがすがった「裏社会の案内人」』などがある。

週刊新潮 2017年11月9日神帰月増大号掲載

特別読物「永代供養に落とし穴 高野山の名刹『120億円』納骨堂ビジネスの破綻――伊藤博敏(ジャーナリスト)」より

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