ビートたけしに「成功の秘訣」を聞いてはいけない理由

文芸・マンガ 2017年10月27日掲載

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成功の秘訣は?

 この秋、映画「アウトレイジ 最終章」、小説『アナログ』、新書『バカ論』がそれぞれランキングで1位を獲得したビートたけしさん(70)。快進撃はこれにとどまらず、10月17日にはフランスで開催「破獄」がグランプリを受賞したことが伝えられました。テレビ東京のドラマとしては初のグランプリ受賞だそうです。

 その成功の秘訣を、誰もが聞きたくなるところでしょうが、新著『バカ論』のなかで、たけしさんは「バカな質問」の代表格として「どうしたら漫才師になれますか」「どうしたら売れますか」を挙げて、こんな風に語っています(以下、『バカ論』より抜粋・引用)。

なろうと思ってなれるもんじゃない

 最近は弟子になりたい、芸人になりたいという奴とあまり話す機会も少なくなったけど、それでもたまに「どうしたら漫才師になれますか?」なんて聞かれることがある。

 バカ言ってんじゃない。

 漫才師になるために金を払って学校に入る奴もいるけど、おいらの場合は、流れ着いたところがたまたま芸人だったというだけ。結果的に漫才師になっただけで、なろうと思ってなったわけじゃない。

 大学の機械工学科でレーザーの研究をやろうと考えていた男が、なんで漫才師になったのか――それをまともに説明できる理由なんか、いくら考えてもないんだ。

 挫折して挫折して、折れて折れて、辿り着いたのが浅草で、そこで偶然漫才師になった。おいらはそうやって流れ着いたけど、時代も状況も文脈も違う奴らに「どうすればなれますか?」と聞かれても、答えようがない。

 それは役者でも同じこと。

 いろんなことをやった末に、偶然役者に辿り着いたという人と、最初から役者を目指してきちんと劇団に入る奴がいる。

「あなた雰囲気があるから、ちょっと役者でもやってみない」と言われて、あれよあれよという間に役者になった人と、役者になりたくてなりたくて、しがみつくようにして役者になった人の両方がいる。そこに就活のような必勝マニュアルなんてない。

 だから、こんな世界では「どうすればなれるか?」なんて、入口のところを一所懸命にほじくり返してもしょうがない。埋蔵金と同じで、そこを掘ったって何も見つかるはずがないんだよ。

「どうしたら売れますか?」

 他にもよく聞かれる質問に、「どうしたら芸人として売れますか?」というのもある。

 これも答えは単純。

 人気が出れば売れる。

 そのためには、面白ければいい。それだけ。

 芸人の世界なんて本当は単純なんだ。

 そう言うと必ず「どうすれば面白くなりますか?」なんて、バカなことを聞いてくる奴がいるんだけど、その時点でそいつは芸人として終わり。

「どうすれば漫才が上手くなりますか?」なんて聞いてくる奴だっている。

 でも、芸が上手いか下手かなんていうのは、あくまで他人が決めること。

 お笑いや漫才というのは、面白いか面白くないかだけで、上手いか下手かを問うのはナンセンス。上手いということは、つまり面白いということだから。

「あの芸人は上手いねえ。でも、つまんないねえ」というのはないんだ。

「上手いねえ」なんて、亡くなったいとしこいしさんぐらいのベテランになって初めて言われることで、50年以上やって、ようやくそうなる。

 今の若い芸人たちも、技術だけでいけば、あのぐらいの掛け合いはできると思うけど、同じものにはならない。70歳を超えて、いつものネタをトントントントンとやって、「もうええ」で終わらせる。それで初めて「上手い」になる。

 けれど、それで爆笑が起きるかと言えば、そうでもない。やっぱり全盛期のやすきよの方が全然上手いし、面白かった。

 プロ野球で言えば、今の野球選手と、長嶋さんや王さんを比べちゃいけないってこと。技術だけで言えば、今の選手や芸人の方が優れているかもしれない。

 だけど、その人が活躍した時代状況が何よりも重要で、その時にいかに周りより飛び抜けていたかが大事。今の芸人はみんな技術があって上手いかもしれないけど、誰がダントツかというと、パッと名前が出てこない。

 ***

 当然のことながら、成功への確実なルートなんかあるはずがありません。それを他人に聞く安易さを、たけしさんは「バカ」だと評しているのです。万が一、たけしさんに質問する機会があっても、こういう「バカな質問」は避けた方がいいのでしょう。

デイリー新潮編集部