「アルツハイマー」根治の夢の治療薬 臨床試験は最終段階

ライフ 週刊新潮 2017年9月28日号掲載

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 生活改善で予防がまかなえればそれに越したことはない。が、確たる自覚もないまま軽度認知障害(MCI)を経て初期認知症へ、といったケースは枚挙にいとまがない。その時、すがるのはやはり科学の進歩であろう。

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 香川大学医学部の中村祐教授が言う。

「世界には現在、アルツハイマーの治療薬は4つしかありません。うち3種は、記憶や学習など認知機能に関係する神経伝達物質『アセチルコリン』の不足を補う薬。もう1つは、同じく脳内で情報の伝達を司る『グルタミン酸』の毒性を抑える薬ですが、いずれも対症療法でしかない。脳内に蓄積されていくアミロイドβには何ら作用せず、症状の進行を遅らせる効果はあっても、止めることはできません」

 そのため製薬会社は、挙(こぞ)って“元凶”に着目した。

「最初はアミロイドβ自体を投与し、体内で抗体を作らせて除去させるワクチンが開発されましたが、薬が強すぎて抗体が脳の正常な部分まで攻撃してしまい、使用できなくなった。それに代わって90年代の終わりから、体外で作った抗体による治療薬開発が盛んになりました」(同)

 中でも「バイオジェン・ジャパン」社が手がけ、現在臨床試験でフェーズ3の段階にある「アデュカヌマブ」は、先頭を走っているという。

「これまでの治験では、認知症の重症度を測るCDR-SBテストでプラセボ(偽薬)に対し、有意な結果を出せた。このテストでそんな効果を示せた薬は、過去にありませんでした」(同)

 バイオジェン・ジャパンの鳥居慎一社長が言う。

「他の抗体薬に比べて試験結果が良好であるのは、効果的にアミロイドβと結合するからだと考えられます。アデュカヌマブは、脳内に存在するアミロイドβの塊と特異的に結合するのが特長。この働きを、脳内のミクログリアという不要たんぱくを食べる細胞が認識し、集まってきて塊を食べてくれるのです」

 実際の治療法としては、MCIの段階で月に1回、静脈内投与を行なう方法が想定されており、

「アミロイドβの蓄積した被験者にアデュカヌマブを3年間投与したところ、健常レベルの数値まで減らせたという試験結果も出ています。厚労省に申請するデータの試験であるフェーズ3を2020年までに終えるのが当面の目標で、優先審査となる『先駆け指定』を受けており、実用化の進捗は早まる可能性もあります」(同)

 その場しのぎでなく、根治を目指せる可能性を秘めた薬というわけである。東大医学部の岩坪威教授(神経病理学)が言う。

「日本は現在、1兆9000億円の医療費と6兆4000億円の公的介護費、それに家族介護費などの6兆2000億円を合わせ、認知症によって14兆5000億円の経済的損失を被っています。他方、認知症治療の研究予算は29億円と、米国の1400億円のわずか2%。ならば、発症してからだけでなくその前にもお金をかけるべきではないでしょうか」

 更なる朗報が待ち遠しい。

特集「800万患者に朗報!早期発見から驚愕の新薬まで!! 『認知症』『アルツハイマー』最新防衛術」より