やってわかったワンオペ育児の大変さ「子育てをやってきたひとはもっと威張っていい」

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 父親は外で働き、母親は一人、言うことを聞かない子供と向き合い、四苦八苦……。望んで産んだかけがえのない子供だけれど、孤独な育児環境に「こんなはずじゃなかった」と悲鳴を上げる母親たちがいる。

ワンオペ育児とは

「ワンオペ育児」とは、一体どういう状況を指すのか。「ワンオペ」とは「ワンオペレーション」の略語で、飲食店などの店舗を1人で切り盛りしている状態を指す。

 新規のお客さんからオーダーを取り、厨房に下がって料理を作る。そこに新たなお客さんが来ればまた表に出て新たに注文を取り、汚れた食器を下げつつ、厨房へとって返す。料理の途中で会計を頼まれれば、それももちろん自分で担当。

 考えただけで目が回る。

 この「一人で様々な業務を一手に引き受ける(=それってちょっと無理ありすぎるんじゃないですか状態)」という概念はネットを中心に広まり、家事、育児と様々な仕事を一人で一手に引き受ける人、主に母親に使われるようになってきた。

 本来、子育ては父親母親をはじめとして周囲の人々が協力して行うべきものだろうが、核家族化が進んだ現在、おじいちゃんやおばあちゃんの手を借りることもままならず、働き手は「外で働くことに手一杯」で、家で小さい子供の世話をするパートナーの日常には気が回らない。

 5月には、おむつのムーニーが母親のワンオペ育児を賛美するかのような動画広告を放映し炎上するという騒ぎがあった。一人きりで育児に格闘する母親の日常を切り取った2分あまりの映像の中に父親はほんの一瞬しか登場しない。子育て経験のある女性達からは自分の経験をもとに、「当時を思い出し胸が苦しくなった」「自分も産後うつ寸前だった」というツイートが多数上がった。

父親によるワンオペ育児

 では、子育てを一手に引き受けている「父親」はこの現状を果たしてどう思っているのだろうか。

 作家の樋口毅宏氏は、弁護士として働く三輪記子さんとの結婚、妊娠を機に三輪さんの働く弁護士事務所のある京都に引っ越した。事実上の専業主夫となり、家事と1歳8カ月になる一人息子の一文君の世話を担当している。

 つまりワンオペ育児の難しさを日々痛感している父親だ。
 樋口さんは家事と子育てに追われる毎日を綴った著書『おっぱいがほしい! 男の子育て日記』のなかで

「これまで生きてきて、小説を書くのがいちばん大変なことだと思っていた。それは間違い。子供を育てることでした。(略)話には聞いていたが、子育てがここまでハードだとは思わなかった。とんでもない重労働。」

 と、育児をゴールの見えない耐久レースにたとえている。
 三輪さんは激務をこなしつつも、家にいる時間は「外で働く男性」とは比べものにならないほど協力的だったというのに、それでも三輪さんの出張中、容態が悪くなると吐いてばかりの赤ん坊の世話をしなければいけなかった夜は、頭がおかしくなりそうだったという。

 そういう夜を乗り越えて、いまつくづく感じるのは、「母はこんなに大変なことを自分にもしてくれたんだな。子育てをやってきた人、みんなえらいなあ。もっと威張っていいぞ」という育児を担う人への尊敬だ。

睨んでくるのはほぼオジサン

 言葉の通じない赤ん坊とずっと引きこもっていては煮詰まる一方だと気分転換に家を出ても、事態は変わらない。というより悪くなることもしばしばだった。たとえば電車でちょっと一文君がぐずっただけで幾度も冷たい視線を浴びたという樋口さんは、「睨んでくるのはほぼ全員が年齢が近い、もしくは年上のおじさんたちでした。もし僕が女性だったら、早く泣き止ませろ!って言ってきたでしょうね。相手がガタイのいい、ひげ面のおっさんだから言わないだけ」と嘆く。

「仕事が休みの時に、ちょっと子供と関わりを持つイクメン」ではなく、樋口さんのように逃げ場がない毎日のなかで子供と向き合う父親が増え、男性が男性に向け育児の大変さをどんどん発信していく世の中になれば、ワンオペ育児に悩む母親も減っていくだろう。
 樋口さんは、いま一人きりで頑張っているお母さんに向けてこんなメッセージを発信する。

「全世界のお母さん、お疲れ様です。あなたは十分頑張っています。家事育児は本当に時間を取りますよね。自分のしたいことなんか全然出来ないけれど、我慢してばかりいたら気分が沈んでしまうので、限界が来る前にパートナーにちゃんと『つらいんだけど……』と訴えましょう。そしてなるべく外に出ましょう。もしクソ野郎が文句を言ってきたら中指を立てて下さい。周囲が必ず自分の味方に立ってくれると信じて」

デイリー新潮編集部

2017年7月20日掲載

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