改めて何が面白いか分からないと再認識した日曜劇場(TVふうーん録)

  • ブックマーク

Advertisement

 みんな大好き、日曜劇場。私は苦手、日曜劇場。出ている役者は好きだけど、展開定型、既視感満載。組織の論理に朝令暮改、男の正義と友情と。太陽・土下座・集団行動。制限時間に焦燥感、一致団結勝利の雄叫び。汗と涙と脂汗。基本は顔芸、どアップ頻発。体映さず顔面勝負。重低音の効果音。妻は優しく寛容で、余計な口出し一切せず。料理上手で家事完璧、陰で支えて男をたてる。恋ナシ不倫ナシ艶福ナシ。清廉潔白、質実剛健。何はなくとも下剋上。

 この手法に皆さんホントに飽きないの? 日曜夜になんとなく熱くなれるお手軽さがいいの? さっぱりわからん。かといって、同じ枠の対抗馬・フジのドラマは驚愕の陳腐さと脆弱(ぜいじゃく)さ。あれはあれで逆に勇敢。足下に埋まっても仕方なし。

 で「小さな巨人」である。私は私なりの手法で、モチベーションを高めるしかない。特に、日曜劇場は脇役陣でうっかりスターになる人もいるわけで、そこは見逃しちゃならねぇと思っていた。思っていたが、今回はどうにもこうにも……。香川照之、安田顕、手塚とおるは同じような役をやっている。決まりきった日曜劇場風味に、演じるほうは飽き飽きしないのだろうか。

 唯一、目をかっぴらいたのは「すわ、立川談春、『ルーズヴェルト・ゲーム』『下町ロケット』に続いてココにも!」と思ったら同じような憎まれ顔の堀尾正明だったとき。私は静かにゆっくりと目を閉じたのだった。

(C)吉田潮

 いっそのこと主演を執拗に観察してみよう。長谷川博己も岡田将生も背が高く、コンプレックスのコの字も見当たらない容貌だ。このふたりが並ぶシーンを、と思っても案外少ない。顔面アップメインで、どーん(長谷川)どーん(岡田)どどーん(香川)の繰り返し……。

 あまりに顔面アップばかりだと、疑念も浮かぶ。ロケにお金がかからない。顔さえあればいいわけだ。もしや日曜劇場も数字が取れず、台所事情が厳しくなったか。太陽も使い回しだし。

 あらすじを説明していなかったが、冒頭の様式で舞台が企業から警察になっただけ。言わなくてもわかるわな。長谷川が立ち向かうんですよ、謀る・欺く・恫喝する警視庁捜査一課長の香川に。そんで香川の直属の部下の岡田は、なぜか長谷川とともに動くんですよ。

 また、長谷川の妻・市川実日子がデキた女なんスよ。夫の靴のサイズを熟知していて、フェラガモの靴を買っておいてくれる妻なんスよ。しかも義母・三田佳子と仲良しなんスよ。設定がややキナ臭くて嘘臭いっス。

 もうひとつ、前期朝ドラ女優をどうでもいい役に据えて生殺しにするのも、日曜劇場の定石。今回の生贄(いけにえ)は芳根京子。女優にとって、日曜劇場に出るのは損だよね。ホモソーシャルではお飾り役だし、無駄に顔面アップが映るだけで、視聴者の記憶にほぼ残らないもの。

「小さな巨人」がいいという人に魅力を聞いてみたら、「長谷川と岡田が素敵」との答えが多数。そもそも日曜劇場に多くを求めていなかった。既視感でも繰り返しでもいいんだってさ。日曜日だから。へぇ。いいのか。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2017年6月1日号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。