【チリ現地取材】国際手配のニコラス妹、服に「Fuck You」で報道陣を挑発

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■筑波大留学生失踪事件 国際手配されたチリ人を追え!(上)

 フランス東部、ブザンソンにある大学に留学中だった筑波大生・黒崎愛海(なるみ)さん(21)の行方が分からなくなってからはや6週間。国際手配されたチリ国籍のニコラス・セペダ・コントレラス(26)の身柄は未だ確保されない。陽炎ゆらめく真夏のチリ、男の足跡を追え!

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 黒崎さんを殺害したとの嫌疑をかけられているニコラスは昨年12月7日頃、列車でフランスを出国し、スイスのジュネーブ、スペインのマドリードを経て母国のチリに帰国したことが分かっている。彼はチリの首都、サンティアゴのアルトゥーロ・メリノ・ベニテス国際空港に降り立つと、サンティアゴ市内にある自宅マンションへと向かったはずだ。マドリードからサンティアゴの距離は約1万1000キロ、飛行時間はおよそ13時間である。

 年が明けて間もないある日、ニコラスの足取りを追って真夏のチリ、サンティアゴに入った。日本からの距離は約1万7000キロ、トランジットの時間も含めて、30時間ほどの旅程だ。

 着陸直前、窓から外を覗くと、眼下に広がっていたのは、乾ききった茶褐色の大地。1月は登山客のハイシーズンで、空港のイミグレーションはアウトドアウェアを着た白人のグループらでごった返していた。

 空港を一歩出ると、乾いた空気が肌を撫で、どこか甘ったるい匂いが鼻腔をつく。空には雲一つなく、降り注ぐ日差しは、皮膚に痛みを感じるほど強烈だ。

■「Fuck You」

ニコラス容疑者が現在潜伏しているであろう、両親のマンション

 空港から車を30分ほど走らせると、ニコラスの自宅マンションがある「ラス・コンデス」地区に入る。スペイン語で「貴族」を意味し、サンティアゴでも1、2を争う、超のつく高級住宅地として名高い地区だ。街路樹の葉がアスファルトの上に色濃く影を落とす界隈は昼間でもひっそりとしていて、辺りに響くのは、いかにも南米風の黄色い羽根を持つ鳥のキイキイという鳴き声だけだった。

 件(くだん)のマンションから出てきたハーフパンツ姿の白人少年に声をかけると、

「ここに住んでいるのはウチも含めてお金持ちばかりさ。ウチは父親がチリ南部に広大な土地を持っていて、それを人に貸して暮らしている。他にも、医者とか会社の重役とか、そういう人がこのマンションにファミリーで住んでいるんだ」

 少年にニコラスの写真を見せると、にっこりと笑みを浮かべて言った。

「最後に見かけたのは2カ月くらい前かな。ここのところ、日差しが強いから結構日焼けしている人が多いでしょ。でも彼は不気味に白くて、そして太っているから印象深くてね」

 ニコラスは、チリの大手携帯電話会社「Movistar」幹部の父、サンティアゴの北約400キロの場所にある観光都市、ラ・セレナの市役所で働いていたが昨年12月に突然退職した母、それから2人の妹の5人家族。両親はラ・セレナで暮らし、ニコラスは、サンティアゴのマンションに2人の妹と一緒に住んでいた。ちなみにその2人の妹は双子である。部屋は1階の10号室で、

「その部屋は広いと聞いたことがある。もしかしたら100平方メートル以上あるかもしれない。家賃は、1000ドル(約11万7000円)は超えているはずだよ」(別のマンション住人)

 チリの最低賃金は、日本円で月額4万6000円ほど。その2・5倍だから、なかなかの高級賃貸物件と言えるだろう。

「昨年12月30日の午前11時15分、マンションの前に白色のシボレーのバンが横付けされた。で、1人の男がエントランスから中に入り、数分後、セーターを頭から被せられた男を引き連れて出てきて、その男をバンの荷台に乗せて去っていった。セーターを被っていたのがニコラスで、連れて行ったのが父親。そのまま、ラ・セレナまで行ったようだ」(現地で取材を続けるテレビ局スタッフ)

 ラ・セレナのニコラスの両親の自宅マンションは、空港から車で20分ほどの住宅街にある。6階建てのマンションが3棟並んでいるうちの、中央棟の6階の601号室。その部屋に、現在はニコラスの妹たちも身を寄せているようだ。昨年末から今に至るまで、日本のメディアがマンションの張り込みを続けているが、ニコラスの母親だけではなく、彼の妹が愛犬の散歩に出かけるところが何度か目撃されたのだ。耳にイヤフォンを装着し、記者の問いかけに応じることはないものの、彼女らの服装から、現状に対する明確な意思が読み取れることがあった。

 ある日、マンションから出てきた妹のTシャツの胸元に「Fuck You」の文字が躍っていたのだ。しかも1つではなく、5、6個の「Fuck You」。張り込む報道陣を挑発するかのような装いだったのである。また別の日、マンションから出てきた母親のTシャツの背中には、「Itʼs a beautiful day」という文字が。そこにも何らかの皮肉が込められていたのだろうか。

 いずれにせよ、一定期間、その部屋にニコラスが匿われていたのは間違いない、と報道陣は睨んでいるのだが、それには理由がある。ある日、その部屋の出窓のカーテンが開き、ニコラス本人が報道陣を睥睨したことがあったのだ。

 何とも奇妙な状況という他ない。

 事件現場のフランスから遠く離れた母国チリにまんまと逃げ延び、潜伏生活を送る殺人容疑者。家族は彼を匿って恥じないどころか、「Fuck You」と書かれたTシャツを着て報道陣を挑発する――黒崎さんの親族が知れば怒りに打ち震えるに違いないこのような事態に、なぜ立ち至ってしまったのであろうか――。

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筑波大留学生失踪事件 国際手配されたチリ人を追え!(下)へつづく

特集「日本から1万7000キロ! 真夏の南米に記者派遣!『筑波大留学生失踪事件』国際手配されたチリ人を追え!」
より

週刊新潮 2017年1月19日号掲載

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