「ストーカー事件は規制法では防げない」桶川事件で警察の怠慢を暴いた事件記者が語る

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 シンガーソングライターとして活動していた冨田真由さん(20)が東京・小金井で襲撃されたのは、5月21日のことである。事件からおよそ一ヶ月が経つ6月20日、警視庁は各都道府県警に対し、ストーカー事案はSNSのやりとりも踏まえて対処するよう、指示を出した。逮捕された岩崎友宏容疑者(27)が、冨田さんのツイッターに執拗な書き込みを行っていたことを受けての対応だが、2000年に「ストーカー規制法」が制定されて以後も、こうした事件は絶えない。

 なぜ警察はストーカー犯罪を防げないのか――「新潮45」7月号に寄せた「絶望の110番 『ストーカー規制法』が機能しない理由」で、日本テレビ報道局の清水潔氏が問いかけている。

■桶川事件との類似

「ストーカー規制法」の制定は、2000年の「桶川事件」がきっかけだった。詳しくは「新潮45」本誌および清水氏の著書『桶川ストーカー殺人事件―遺言』(新潮文庫)に譲るが、猪野詩織さん(当時21)へのプレゼントの押しつけを断られた男が、複数人で詩織さんや家族の誹謗中傷ビラを撒くなどの嫌がらせを行った末、詩織さんを桶川駅前で刺殺した、という事件である。

 当時、写真週刊誌『FOCUS』の記者として取材に当たった清水氏は、「青年実業家」を名乗っていたストーカー男の正体が性風俗店オーナーであること、殺害犯がその従業員であることなどを突き止め、犯人逮捕に貢献した(ストーカー本人は自殺体として発見)。さらには、嫌がらせを訴え出た詩織さんの「告訴状」が改ざんされていたことも明らかにし、警察官3人が懲戒免職を受けている。

 清水氏は、〈冨田さんが襲われた今回の事件も経緯は「桶川事件」と類似する部分が多い〉と指摘する。※〈〉は本文より引用、以下同。

〈詩織さんには大量のビラが貼られ手紙が送りつけられたが、冨田さんのSNSへの書き込みは340件にも上った。それでも武蔵野署はこれをストーカー相談として受理せず「一般相談」とした。その理由は「SNSでの書き込みはストーカー規制法の対象外」だからだという〉

■“カウントダウン”

 警察が被害を把握していながら、ストーカー事件を防げなかったケースは他にもある。例えば2013年の「三鷹ストーカー事件」で元交際相手の男に刺殺された女子高生は、警察に「待ち伏せされている」と相談していた。

〈取り締まる法律が無い、規制できない、対象外……。まさにお役所仕事の真骨頂。法律云々ではなく、その本心は「桶川事件」のように余計な仕事を抱えたくないのではないか、と勘ぐらざるを得ない〉

 と嘆く清水氏は、個人の警護にまで手が廻らない警察の事情を考慮したうえで、ストーカー事件の“特殊性”を指摘する。

〈つまりストーカーによる凶悪事件の発生は、ストーカー自身がカウントダウンしているということだ。事件が起こる可能性を事前に提示されているのに、それを阻止できなければ当然批判の声もあがる。警察が行っている交通違反取り締まりの「名目」は事故防止である。駐車違反を取り締まるのと同じくらいの熱意でストーカーを取り締まったらどうなのか〉

「新潮45」記事では、冨田さんの事件、桶川事件の詳細を踏まえ、事件記者として現場を知る清水氏だからこその“無念”を綴っている。

デイリー新潮編集部

新潮45 2016年7月号掲載

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