明治「R-1ヨーグルト」のステマ番組 唐突感ありありのフリで商品紹介

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 DeNAのキュレーションサイトが問題化したように、世に溢れる健康情報はその“作られ方”を吟味しないと質を考えることは出来まい。では、「免疫力アップ」と喧伝されるこの健康商品はどうか。明治R-1ヨーグルトとテレビ局は「ステマ商法」に手を染めていた。

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明治「R-1ヨーグルト」。身体に良いことは間違いなさそうだが……

 関係者の間で回った、一つの文書がテレビ業界で密かな話題になっている。

〈番組はR-1乳酸菌の情報を盛り込み、(明治から)タイアップ料金をいただくことで成り立ちました〉

〈しかし、(明治のスポンサー)提供表示はしない。それを(明治も)理解しています〉

〈(番組で用いられた)素材も、メーカー(=明治)から提供いただいたそのものです〉

 昨年11月に行われた、TBS系列のローカル局「IBC岩手放送」の番組審議会。その非公開の議事録がある。そこでは審議委員(局外部)の追及により、R-1ヨーグルトが同局で「ステマ」手法で宣伝されたことを、局幹部が“自白”してしまっているのだ。

 明治R-1と言えば、インフルエンザ予防に“効く”と話題のヨーグルト。スーパーで陳列されている、赤いパッケージを見覚えの方も少なくあるまい。今冬もインフルエンザは大流行の兆しを見せているから、これから売り上げを伸ばすことは間違いないのだ。

「R-1は、乳酸菌の一種、R-1乳酸菌を含んだヨーグルトです」

 と言うのは、さる経済誌の記者である。

「この菌を含んだ商品を扱っているのは明治だけ。明治は佐賀県有田町などでお年寄りや子どもに一定期間、R-1ヨーグルトを飲んでもらい、免疫力が上がった、風邪やインフルエンザの罹患率が下がったなどの調査結果を公表。4年前、これをNHK『あさイチ』が特集したところ、売り切れが続出しました。以来、キー、ローカル問わず、この種の番組が毎年流されています」

 この1年を取っても、数多くの番組が放送されているワケだが、なぜ同じ「ネタ」が繰り返し流されるのか。なぜR-1は、TVマンに受けが良いのか。冒頭の議事録は、その「カラクリ」を解く一つのカギになるかもしれない。

■唐突なフリ

 事の経緯はこうだ。

 IBCは昨年9月、「宮下・谷澤の東北すごい人探し旅~外国人の健康法教えちゃいます!?」なる番組を制作、東北5県で放送した。

 これはタレント2人(宮下純一、谷澤恵里香)が岩手県内在住の外国人に、健康の秘訣を聞いて回る企画。

 その日、アメリカ人の「トウガラシ健康法」、ドイツ人の「こだわり料理健康法」などを取材した2人は、温泉旅館へ。混浴に入った後、夕食の場面でこんな会話を交わした。

谷澤「普段、湯船とかつかりますか?」

宮下「家ではさっと浴びて済ませて早く寝たいみたいな感じが多いかも」

谷澤「湯船につかって身体を温めないと、免疫力とか上がらないらしいですよ~」

 唐突感ありありの「谷澤さん」のフリなのだが、ここで画面は、順天堂大学免疫学講座の奥村康・特任教授に切り替わり、教授はキッパリ、「温泉は免疫力を上げます」。「外国人の健康法」はどこへ行ってしまったのか、と言いたくなる展開である。更に、ナレーションが、「忙しい現代社会でも手軽に免疫力を高める食べ物がある」と話題を無理やり温泉から食べ物へ持っていく。そこへ、「それがR-1と名前が付いている乳酸菌です」と再び教授が登場。前述の有田町などのデータが提示された後を受けて、「R-1乳酸菌を取っておくと免疫の下がりが少ない」と太鼓判を押す。約7分間の「脱線」をニッコリ笑顔で締めくくって、ようやく番組は「外国人の健康法」の旅へと舞い戻ったのである。

 R-1乳酸菌と聞いて思い浮かべる商品があるとしたらあの赤いパッケージしかなく、消費者感覚からは2つは同一と考えてよい。

■「ノンクレジットタイアップ方式」

 VTRを見たフリーディレクターで『テレビ局の裏側』の著者・中川勇樹氏が、

「途中で未完成なショッピング番組が挿入された印象。シュールで放送事故寸前」

 と言うように、この場面は、明治の宣伝そのもの。しかし、繰り返し見ても、提供テロップの他、CMにも、エンドロールにも明治のメの字も出てこないのだ。

 これに噛みついたのが、月に一度、放送内容について委員が意見を述べる「番組審議会」である。11月に開かれた会で、〈あざとい〉〈裏には何かあるのか〉〈視聴者をバカにしている〉など批判が噴出。

 それに対し、IBCの編成局長、そして番組プロデューサーから出た説明が、大要、冒頭の発言である。

「IBC岩手放送」番組審議会の議事録

「自白」によれば、番組は、IBCの営業と下請けの制作会社、広告代理店、明治の宣伝担当者との間の「コミュニケーション」で成立した。CM枠ではなく、番組内でR-1の情報が盛り込まれることを条件に、明治がこの番組に「料金」を出す。番組内で流れる「提供」社の中にも明治の名を入れない「ノンクレジットタイアップ方式」を取り、医師やデータは明治が提供したそのものを使った――。

 ちなみに、「医師」とは前出の奥村教授だが、

「明治から寄付を受けて大学に講座を開設している。言わば、“利害関係者”」(先の経済誌記者)

 つまり、番組のR-1に関する部分は、明治の「広告」。明治とIBCはそれを隠して宣伝、すなわち「ステルスマーケティング」を行った。だが余りに番組の出来が悪く、簡単にバレてしまったという顛末である。

 なお、総務省地上放送課によれば、

「放送法12条では、広告の意図をもって特定の商品の有効性を訴える場合、視聴者の方にそれを明らかにわかるようにしなければいけないと定められています」

 IBCがその一線を踏み越えたことは間違いない。

特集「完オチの議事録入手!明治『R-1ヨーグルト』とテレビ局の裏金『ステマ番組』」より

週刊新潮 2016年12月22日号掲載

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