「“夢の新薬”が日本を滅ぼす」現役医師の衝撃告発 問題はオプジーボだけではない

社会新潮45 2016年11月22日掲載

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オプジーボを体重60キロの患者に1年間投与した場合の薬価は約3460万円! 仮に半額にしても約1730万円。(写真※小野薬品工業のプレスリリースより)

■「夢の新薬」のマイナスとは

 IPS細胞をはじめとして、医学の分野での新しい発見、画期的な新薬の開発のニュースは、ポジティヴに伝えられることが一般的である。これまで治らなかった病気が治るというのならば、喜ばしいと受け止められるのも当然だろう。
 しかしながら、薬に副作用があるのと同様、「夢の新薬」にも大きなマイナスがある。体への副作用ではない。「カネ」の問題だ。

 16日、厚生労働省の諮問機関、中央社会保険医療協議会は、がん治療薬「オプジーボ(一般名ニボルマブ)」の薬価を半額に引き下げると決定した。オプジーボは、画期的な薬である。たとえば肺癌に対しての有効率(縮小効果があった率)が15~20%で、さらに病勢を制御できる(大きくさせずに抑えられる)率はもっと高い。しかも、効果が長続きする点が特長だ。通常の化学療法と比べると、効果持続期間がはるかに長いのだ(実際には色々な条件があるが、ここでは詳細は省く)。

 ともあれ、要するに、この薬は、適した患者にとっては「とても良く効いて、長持ちする」わけで、まさに「夢の新薬」である。日本人の研究によって生まれたこの薬は、当初、悪性黒色腫に対して認可され、昨年12月には肺癌のうち、80%を占める非小細胞肺癌についても承認された。
 一方で、そのマイナスとされているのが高額な薬価だった。
 その問題点を雑誌「新潮45」掲載の論文でいちはやく指摘したのが、医師の里見清一氏だ。この論文によれば、オプジーボを体重60キロの患者に1年間投与した場合の薬価は約3460万円! 仮に半額にしても約1730万円。決して安い金額ではない。
 こんな金額、普通の人なら払えないと思われるかもしれないが、実際には高額療養費制度を使うことで、オプジーボを使っても、自己負担は最高でも年間200万円、生活保護者であれば無料である。

■年間2兆円!?

 もちろん、この差額分は公で負担することになる。その金額はどのくらいか。里見氏の論文を収録した新著『医学の勝利が国家を滅ぼす』をみてみることにしよう。

「日本人の肺癌は2015年の推定で13万人(増加中)とされているから、非小細胞肺癌患者数は年間10万人強で、手術で治るものなどの2~3割を除き、8万人前後が『内科的な治療』の対象になると計算される」

 現在、その中で誰に効くかはわからないという。そのため対象となるすべての患者に使うことになる。仮に5万人に1年間使うと1兆7500億円ということになる。

 実際には1年間使う人は少ないが、簡単に数千億円になる。末期の治療費も嵩む。
ほとんどは公的負担である。
 オリンピックが何回出来ることだろうか。

 こうした里見氏の問題提起によって、雑誌や新聞、さらにNHK「クローズアップ現代+」などもこの問題を取り上げるようになった。

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■薬価見直しは焼け石に水

 さすがに無視しきれなくなったか、厚労省はオプジーボの薬価を見直すこととしており、本来の改定時期とは別に臨時に引き下げる方針だという。ただし、仮に半額にしたとしても莫大な金額には違いないうえ、一方で適用する病気を増やしているというから、総額は大して変わらないかもしれない。
 しかも、高額な新薬はオプジーボだけではない。この薬だけに注目すると、事の本質を見失う可能性が高い、と里見氏は警告を発している。
「ことは『一つの薬』だけの問題ではありません。突出したものに対して何かアクションを起こし、安心するのは実は最も危険なことではないでしょうか」
 要は、一つの薬の値段を抑えることに成功したとしても、次々に「夢の新薬」は誕生する。そのコストを公的に負担するのはもう限界なのだ。
 言うまでもなく、これは国民すべてに関係する重大な問題である。しかし、里見氏は、医師として、「命」と「カネ」の問題を議論するのはリスキーなのだという。
「命の値段を考えるとは何事だ」
 という批判を浴びかねないからだ。
 それでも里見氏は、「医療費の膨張は国家財政の破綻を招きかねない。子孫に破産した国家と荒廃した医療現場を残すわけにはいかない」との思いから、問題を告発したという。

デイリー新潮編集部