日本の地方議員、年収1000万円が当たり前 英国の事情は

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 次々と政務活動費(以下、政活費)の不正受給が発覚している富山市議会だが、そもそも地方議員はかなりの高給取り。総務省や全国市議会議長会などの資料を基に計算すると、都道府県議の年収は1200万円から1700万円程度、20ある政令市の市議ならば平均1550万円、47ある中核市は年収1020万円となる。

 富山市議の場合、月額報酬は60万円。ボーナスは約4・5カ月分で、年収にすれば989万7000円。さらに月15万円の政活費を含めると、1169万円になる。

 さらには、年間約200日は働く国会議員に対し、「地方議員は、100日にも満たない。会合などに行くことがあるとはいえ、基本的に暇でしょう」(政治アナリストの伊藤惇夫氏)

サラリーマンは到底納得できない(イメージ)

 実際、都道府県議会の平均会期日数は85・11日で、富山市議会に至っては69日だという。これでは世のサラリーマン諸氏は納得がいかないというものだ。

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 行政学が専門の中央大学経済学部の佐々木信夫教授によれば、

「例えば、国会議員は国家公務員法における常勤の特別職です。地方議員は、地方公務員法の非常勤の特別職にあたる。常勤であれば、生活給が支給されるのは当然です。逆に非常勤の地方議員に生活給を保障する必要はありません。現在の制度が抱えるジレンマは、一定の割合の地方議員が専業であるために生活給を出さざるを得ない状況になっていることです」

 改善策としては、法制度を変えて常勤にし、議員活動に従事する日数を増やす。現状で地方議員になるのは、会社社長や自営業者など、昼間の時間を自由に使えるごく一部の人だけである。そこで普通のサラリーマンが地方議員になれるよう夜間議会、休日議会を行い、報酬は実費支給にするなどが考えられるという。佐々木教授が続ける。

「この2つに関しては、言い換えれば、『アメリカ型』と『イギリス型』のどちらを参考にするかという議論があります。人口7万~8万人の市を例に取ると、アメリカでは5~6名の議員がある程度高い収入を得ている。一方、イギリスではかなり多くの議員が、無報酬で夜間、土日に議会を行っています。日本は、20名位の議員が高待遇を受けています。非常に中途半端な状態です」

■英国地方議会は7000ポンド

 イギリスのケースを見てみよう。先にも述べたが、ロンドンなどの大都市を除き、地方議員は無報酬だ。在ロンドンの国際ジャーナリスト・木村正人氏の解説。

「歴史的に英国の地方議員は、貴族などの富裕層が務めてきたので、報酬は必要ありませんでした。それは今も続いていて、『名誉職』という扱い。が、現在は普通の人も議員になっているので、少しばかりの手当が支給されています」

 手当の種類は、基礎手当、議長や議長補佐への特別責任手当、子どもの養育のために人を雇う場合の世話手当、議員の仕事のために収入が減ぜられる場合の所得損失手当の4つに分類される。人口15万人のオックスフォード市の場合、市議会議員は60名で、

「基礎手当が年間4600ポンド(約60万円)、特別責任手当は1万1503ポンド(約150万円)、世話手当は1時間7・5ポンド(約1000円)でした」(同)

 同じ人口を抱える東京都多摩市の議会の定数は26名で、こちらの年収は約790万円。もう一つ例を挙げよう。

「サリー州議会の基礎手当は1万1470ポンド(約150万円)、特別責任手当は2万5000ポンド(約320万円)、世話手当が1時間6・5ポンド(約800円)でした」(同)

 サリー州の人口は108万人で富山県と同じ規模である。富山県議の年収は約1300万円で、

「13年に英国の中央議会で発表された『地域・地方政府特別委員会』の調査によれば、地方議会の平均基礎手当は7000ポンド(約90万円)でした。英国全体の平均年収は2万6500ポンド(約345万円)です。つまり、英国の地方議員が受取っている手当は、日本の地方議員の報酬に比べると圧倒的に安いといえます」(同)

 念のため言うと、ロンドン市議会議員の平均年収は5万5161ポンド(約700万円)である。

「日本のように大都市であれば1000万円超が普通なんていうのはあり得ません。とはいえ、こうしたボランティア的な形がいいのかというと、必ずしもそうではない。若い人のなり手が減っていて、手当を増額すべきだとの意見も出ています」(同)

■地方議員の“本音”

 イギリスと比べても、日本の地方議員が高給取りであることは確認できた。だが、自民党の五本幸正・富山市議(「政務活動費のあり方検討会」座長)は、色をなして反論する。

「60万円の議員報酬といっても、手元に残るのは毎月二十数万円ですよ。兼業が多いとはいえ名誉職の人も少なくなく、自民についていえば、10名程度が専業だ。報酬を10万円増額しようとしたことは、今も間違っていたと思っていません」

 そもそも何故、彼らの手元にお金が残らないのか。自民党の元富山市議は、

「結局、後援会との付き合いなどの飲み代、冠婚葬祭の出費、季節の行事の参加費などに金がかかるんです」

 そんな本音を言えば、世間から顰蹙を買うことは明らかである。先の佐々木教授が指摘する。

「富山の一件で、日本の地方議会が抱える制度上の問題が見えた。大改革を行うべき時です。ただ、名古屋市の河村たかし市長が大幅な報酬の減額を行いましたが、結果的に議会の反対によって元に戻っています。それが彼らの本音です」

 お気楽な地方議員は、なかなか減りそうもない。世のサラリーマンはナメられっぱなしなのだ。

特集「実働3カ月で年収1000万円がゴロゴロ! しかも兼業可! 『地方議員』はサラリーマンをナメている!!」より

週刊新潮 2016年10月20日号掲載

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