3本の“原爆マグロ”が築地市場のどこかに…

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原爆マグロはどこに……

「豊洲移転の白紙撤回も辞さない覚悟で臨む」

 小池都知事が立ち上げた市場問題プロジェクトチームのメンバーの中にはこう嘯(うそぶ)くものもいるという。この発言自体、豊洲の土壌汚染への不安を一層駆り立てそうだが、一方で築地市場こそ不衛生極まりないという事実は「週刊新潮」9月29日号でお伝えした通りだ。しかも場内には、人々の記憶から忘れ去られた“負の遺産”が潜んでいる。場内の地中どこかに眠る「原爆マグロ」の存在だ。

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 アメリカがビキニ環礁で行った水爆実験で第五福竜丸が被曝したのは1954年3月1日のことだった。

 約2週間後、死の灰を浴びた船から水揚げされたマグロやサメなど約2トンの魚が築地に入荷。都や厚生省(当時)がガイガーカウンターを使って放射能の検査を行ったところ、基準値を超える放射線が検出された。

「放射能汚染が判明した瞬間、築地市場は大パニックに陥りました」

 と振り返るのは、当時を知る元仲買人だ。

「市場ではマグロに買い手がつかず、セリが不成立となる前代未聞の事態となった。当然、マグロの値段は大暴落しました」

 厚生省の指示で、マグロ3本、サメ28本が廃棄処分とされ、すぐさま築地場内の一角に埋められた。

 爾来六十余年。この原爆マグロと原爆サメは場内のどこに眠っているのか。近い将来、豊洲移転による跡地再開発、もしくは築地再整備のいずれになるにせよ、この放射線が事業に影響を及ぼすことはないのだろうか。東京都中央卸売市場の財政調整担当課長が語る。

「原爆マグロが埋められたのは、築地市場の正門に向かって左側にある巡視詰所の裏あたりではないかと思われています。掘られた穴の深さは2~3メートルだそうです。96年1月、都の交通局の主導で都営大江戸線築地市場駅のA1番出口を作るに際し、その周辺を掘削工事する必要があった。そのため事前に、放射能の測定を行いましたが、異常な数値は出ませんでした」

 これを受け、掘削工事が行われたのだが、

「明治初期の焼土層が出るところまで掘られたものの、マグロの骨など、廃棄された形跡は見つからなかった。放射能検査や工事が行われた範囲と、実際に埋められた場所がずれていた可能性が考えられます」(同)

 正しい埋設場所を把握する必要があるが、

「正確な記録が残されておらず、今となっては分かりません。90年代、築地再整備で話が進められていた時も、マグロが埋まっていると思われた場所は、留意が必要なチェック項目に入っていました。再開発するのであれば、改めて土壌汚染調査などが必要になります」(同)

 実際のところ、放射能汚染の懸念はあるのか、ないのか。東京工業大学先導原子力研究所准教授で、放射線生物学が専門の松本義久氏の解説を聞こう。

「ガイガーカウンターで毎分100カウントを超えた魚を埋めたそうですが、それが150なのか、10000なのか、判然としない。また放射性降下物はヨウ素、セシウム、ストロンチウムが一般的ですが、それぞれ半減期が違う。ヨウ素131は8日、セシウム137やストロンチウム90は30年です。どれがどれほどの量であったのか、記録が残されておらず、分からない。この情報で、今どう処分すべきか、判断するのは難しいと言わざるを得ない」

 むろん徒(いたずら)に不安を煽るつもりはない。しかし、有害物質が基準値以下の豊洲の地下水より、行方知れずの原爆マグロの方がよほど心配ではあるまいか。

「特集 どんどん湧き出る『アルカリ地下水』と疑問点 イースター島より不思議な豊洲アイランド! バカな話が多すぎる『豊洲のパンドラ』10の疑問」より

週刊新潮 2016年10月6日号掲載

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