水素水を飲むなら水道水のほうがいい?――“生みの親”が反論

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 伊藤園やパナソニックなど大企業も参入し、水素水の市場規模は間もなく300億円台に達するという。日本医科大学の太田成男教授(細胞生物学)らが2007年に論文を発表したことで知られるようになったこの水は、脳梗塞や認知症などに効果抜群と喧伝されているが、これに否定的な向きも少なくない。

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“水素”とつけば売れ筋に

 厚労省が所管する独立行政法人「国立健康・栄養研究所」も、水素水に関して、HP上である情報を公表した。更新された素材情報データベースの記述を抜粋すると、

〈俗に、「活性酸素を除去する」「がんを予防する」「ダイエット効果がある」などと言われているが、ヒトでの有効性について信頼できる十分なデータが見当たらない〉

〈ヒトにおける有効性や安全性の検討は、ほとんどが疾病を有する患者を対象に実施された予備的研究であり、(中略)市販の多様な水素水の製品を摂取した時の有効性を示す根拠になるとはいえない〉

 要するに、現時点での水素水の有効性を言下に否定したのである。

 それどころか、唐木英明・東大名誉教授(薬理学)に言わせれば、

「安全性試験のない水素水よりも“水道水”のほうがはるかに優れています。何しろ、水道法で定められた、最も厳しい品質基準をクリアしたわけですから。また、人間の消化管では絶えず水素が作られています。にもかかわらず、わざわざ微量の水素が入った水を飲む必要などないのです」

 人間の大腸では、腸内細菌の働きで1日に7~10リットルのガスが発生し、その約1割を水素が占めるという。

■プラシーボ効果

「ガスのうち最大で2リットルがオナラとして排出されますが、少なくとも0・5リットルの水素が体内に吸収され、血液循環に乗ることになる。それに対し、市販されている水素水に充填される水素は飽和状態で1・6ppm。水素水1リットル当たり0・02リットルとなり、体内に残る水素の25分の1に過ぎません。“水素水が効いた”と仰る方のほとんどは思い込み、プラシーボ効果だと思います」とは、法政大学教職課程センターの左巻(さまき)健男教授(理科教育)だ。

 山形大学物質生命化学科の天羽(あもう)優子准教授も、

「プラシーボ効果だけでなく、それまで砂糖入りのコーヒーやジュースを飲んでいた人が水素水に替えたことでダイエットに繋がったり、適度な水分を補給するようになってお通じが良くなり、肌がきれいになったというケースもあるかもしれない。ただ、それは水を飲む習慣がついただけ。水素水は中高年の健康不安につけ込んだ風評ビジネスと呼ぶべきだと思います」

 と手厳しい。

■“生みの親”の反論は…

 こうした数々の批判に、太田教授はどう答えるのか。

「まず、国立健康・栄養研究所の“信頼できる十分なデータが見当たらない”という発表は、あくまで定型文で、水素水だけを悪く書いているとは思えません。科学的な判断というより、むしろ“水素水で一儲けしようと企む悪徳業者を利することはできない”ということでしょう。私自身、基準に満たない紛い物には業を煮やしています。たとえば、活性水素やプラズマ水素と称する商品や、ペットボトル入りの水素水は全てインチキです。水素分子は極めて小さく、時間が経過するとペットボトルの素材をすり抜けてしまいますから」

 ちなみに、太田教授は著書で“0・8ppm”以上の水素水であれば効果が見込めると記している。先の唐木氏の指摘を踏まえれば効果のほどは疑わしいが、

「“0・8ppm”という基準は臨床試験の結果から導き出した数字です。腸内でも水素は発生しますが、水素水を飲んで急激に濃度を上げることが効果的という研究結果もある。とはいえ、まだまだ人体レベルでの大規模な調査が足りないのは事実です。ただ、すでに178人のパーキンソン病患者を対象とした試験も進められ、来年の夏には国際学会で結果を発表する予定になっています。今後の目標は、インチキ商品を排除した上で、10年以内に水素水市場を1兆円規模に拡大させることです」

 と太田教授の鼻息は荒い。

 確かに、医療分野における水素の活用については、“懐疑派”の識者も一定の理解を示している。しかし、“生みの親”ですら研究段階と認め、インチキ商品の横行に閉口している現状では、市販の水素水に劇的な効果を期待するのはどだい無理な相談である。

「特集 脳梗塞 認知症 メタボまで効果抜群? 200億円市場に膨らんだ『水素水』を信じてよいのか?」より

週刊新潮 2016年7月28日号掲載

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