「関の爪切り」「フリクション」外国で高評価メイド・イン・ジャパンの日用品(1)

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 かつて世界を席巻したメイド・イン・ジャパンの電気製品に、昔日の勢いは微塵もないが、代わりに今、世界中から高く評価されている日本製の商品群がある。爪切りから紙オムツまで、さりげない「日用品」の質の高さに、外国人たちがうなっているのである。

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 近ごろ、にわかに“MADE IN JAPAN”が世界で見直されている。それも、ハイテク機器よりはむしろ、日用品が注目を集めているのだ。

「昔から“神は細部にやどる”といいますが、日用品は、暮らしの細部をいろどるもの。そういうところにこそ、ちゃんとしたモノが嬉しいじゃないですか。だからいま、“日本製”のクオリティが高い日用品がひっぱりだこなんです」

 そう語るのは、あるライフスタイル誌のベテラン編集者である。仕事柄、内外のさまざまなグッズを見てきた同氏は、

「爪切りとかボールペンといった、ほんとうに“これが?”というような製品が、海外で高い評価を得ているんです。細部まで芸が細かくて、“これこそがMADE IN JAPAN”という評価なんです」

■「Seki EDGE」

 では、外国人が思わずうなる“細部”や“芸の細かさ”とは、具体的にはどういうものなのだろうか。それを探ることは、“MADE IN JAPAN”の今後の行方を占うことにもなるだろうし、ひいては、空洞化に歯止めがかからない日本の産業にとって、道しるべのひとつにもなるはずである。

「製品自体は30年ほど前に開発して、輸出を開始してから20年くらいになりますが、ここ5年ほどでぐんと評価が高まりました」

“Seki EDGE”というブランド名で爪切りなどの製品を輸出している会社「グリーンベル」企画管理部の担当者は、したり顔でこう話す。

 お気づきになった方もいるかもしれないが、Sekiとは、関の孫六で知られる岐阜県関市のこと。刃物で名高い同市で造られた爪切りは、ここ数年、海外のSNSを中心にその性能の高さが話題になり、1カ月に約5000個を売り上げるまでになったという。

「国内でも別ブランドで販売していますが、こちらもお土産にちょうどいい大きさらしく、旅行客に非常に人気です。ところで、アメリカでは爪切りはニッパー型のものが主流で、うちの製品は価格的には、現地の平均的なものの数倍になりますが、上下に独自の刃付けをした爪切りは形も珍しく、使った方は、切れ味や使い勝手のよさに驚かれたんですね」(同)

 まさに爪の先ほどの商機を見逃さず、ムーブメントを作り上げてきたグリーンベル。担当者は、

「なにより品質が評価されたわけですから、今後は検品に一層力を入れます」

 と、実に堅実な言葉で締めくくった。

“Seki EDGE”の爪切り

■「フリクション」「ジェットストリーム」

 同じく、手のひらにおさまる日用品として大人気なのが日本製筆記具である。

「これまでに世界で、12億5000万本を売り上げてきました」

 と、文房具を製造するパイロット営業企画部の担当者が胸を張るのは「フリクション」のことである。計算上は、全世界の6人に1人が使ったことになるこの製品は、ボールペンでありながら、軸のうしろに付いているラバーで擦ると、摩擦熱によってインクの色が消える、というものだ。

消えるボールペン「フリクション」(パイロット)

「フランス現地法人の社長からの提案がきっかけでした。あちらの国では子どもたちも学校でボールペンを使っているそうで、書き損じるたびにインク消しを使わなきゃいけなくて大変だから、この製品をぜひ現地で売りたい、と伝えてきたのです。そこで日本に先駆けて売り出したところ、大変好評でした」(同)

 筆記具でいえば、三菱鉛筆の水性ボールペンも海外で爆発的人気を誇る。「ユニボール」というブランド名で売られ、発売以来、評価が高い。油性なのに水性のような書き心地の「ジェットストリーム」というシリーズも人気だ。同社の広報によれば、

「欧米はサイン文化で、筆記体で文字を書くことが多いため、さらさらっと書ける水性ボールペンが人気があります。ただ、かつてはペン先の金属の腐食など克服すべき問題がたくさんあったのですが、それらを解決した製品を開発、発売して、長きにわたって高い評価をいただいています」

 その結果、いま、同社の売上げの4割強は海外でのもの。海外における高い評価がうかがい知れる。

油性なのに水性のような書き心地の「ジェットストリーム」(三菱鉛筆)

 前出の編集者は、

「食品を包むラップや工具のドライバーなど、“MADE IN JAPAN”は意外なモノが高く評価されています。製品として出来がいいのはもちろん、どこで買ってもアタリハズレがないのも大きい」

 と語る。爪切りや文房具について、この言葉には納得させられる。

(2)へつづく

「特別読物 外国人がうなる『メイド・イン・ジャパン』日用品の実力――白石新(ノンフィクション・ライター)」より

白石新(しらいし・しん)
1971年、東京生まれ。一橋大学法学部卒。出版社勤務をへてフリーライターに。社会問題、食、モノなど幅広く執筆。別名義、加藤ジャンプでも活動し、マンガ「今夜は『コの字』で」(原作)がウェブ連載中。

週刊新潮 2016年3月31日号掲載

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