中国で拘束された日本人スパイを見捨てた公安調査庁

社会週刊新潮 2016年4月28日号掲載

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 中野は語らず――。戦時中、秘密裡に諜報員を養成した陸軍中野学校では、この不文律が徹底され、拷問に屈しないよう過酷な訓練が課せられた。さて、そんな先人たちほどの覚悟もなく、007のような活躍もできないまま中国の手に落ちた現代の“スパイ”たちは、目下、その雇い主について口を割り始めたという。

 昨年9月に中国が日本人男性2人の拘束を発表してから早半年。そんな折、にわかに囁かれ始めた情報がある。政府関係者が声を潜めて語るには、

「中国は今年1月までにスパイ容疑で4人の日本人を逮捕しているが、そのうち2人の起訴に向けて動き出した。しかも、彼らは“完オチ”に近い状態。これまで報じられてきた通り、自分たちが公安調査庁からの依頼を受けて中国で情報収集を行っていたことを白状しているというのです。早ければ来月上旬にも起訴され、6月中には公判が始まると考えられます」

 起訴間近とされる1人は神奈川県に住んでいた50代半ばの男性。すでに帰化しているが“脱北者”の過去を持つ。彼を知る人物は、

「普段はパチンコ屋の景品交換所で働いていたが、今回の事件が起きる前には、知人の仕事を手伝って中国に長期滞在することも少なくなかった。拘束が報じられると、同居していた家族は夜逃げ同然に引っ越してしまいました」

 もう1人は愛知県の50代前半の男性で、中国相手に人材派遣や貿易を行なう会社の役員を務めていた。

「その男性はすでに昨年中から自供に転じ、公調だけでなく、内閣情報調査室と接点があったことまで認めたようだ」(先の関係者)

■最高刑は死刑

 拷問の有無はともかく、彼らが“スパイ行為”を認めたことで、事態が急変したのは間違いなかろう。

 しかし、2人がスパイ容疑で逮捕されたのは昨年9月。日本人の感覚からすると、それから起訴まで半年以上掛かること自体、首を傾げざるを得ない。だが、産経新聞中国総局特派員の矢板明夫氏によれば、

「中国の司法制度における起訴までの日数についての規定など、あってないようなもの。08年に発覚した毒餃子事件でも、犯人が起訴されたのは逮捕から4カ月後でした。今回の一件がここに来て起訴されるとなれば明らかに政治的な判断でしょう。安保法制を巡る騒動がひと段落したことで、中国政府としては、新たな日本叩きの材料が必要になった。要は自国民の反日感情を煽るために“スパイ事件”を利用したいと考えているのです」

 中国で国家機密に関わる罪に問われた場合、裁判は非公開となる公算が高いという。それでは、密室で下される判決の行方はどうか。

「量刑については罪状次第です。2人が日本の諜報機関のメンバーとして情報収集に当たっていたと判断されるとスパイ罪が適用される。そうなれば最高刑は死刑で、10年以上の懲役を科せられる可能性もあります。また、組織的な活動ではないとされても、国家機密探知罪などで懲役3年以上、10年以下の判決が下されるのがほとんどです」(同)

 拘束された2人には日本の大使館員や、中国の弁護士が面会しているとの情報もある。しかし、彼らの雇い主である公調に質しても、

「お答えできません」

 と繰り返すのみ。

 ノンプロ“スパイ”を送り込み、ヘタを打ったら見捨てる。情報機関として本当にそれでいいのか?

「ワイド特集 浮世にも活断層」より