フランス、ベルギー…EUはなぜテロの標的にされるのか 広岡裕児(ジャーナリスト)

国際2016年3月25日掲載

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 3月22日、ベルギーの首都ブリュッセルで発生した、IS(イスラム国)の自爆テロ。34人が死亡し、200人以上が負傷した。昨年秋のパリに続いて起こった、この欧州の悲劇。その根源に潜むものとは何なのか? 40年以上にわたって欧州を取材し続けたジャーナリストの広岡裕児氏が緊急寄稿。広岡氏は、この3月に最新情報を盛り込んで『EU騒乱 テロと右傾化の次に来るもの』(新潮社刊)を上梓したばかりである。

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 パリの連続テロから4か月、こんどはブリュッセルがISの攻撃に曝された。私はパリの連続テロの時、フランスのテロ問題の専門家かからこんなことを聞いた。

「ベルギーとフランスはブリュッセルを拠点とするひとつのグループで、別の国には、ドイツや英国をカバーするグループの拠点がある」そして彼は「また、必ず起きる」と言ったが、たしかに、その通りの展開になった。逃げることを考えない自爆テロに対しては、いくら警戒しても、できることは、その可能性を減らすことぐらいである。

 事件の日の昼、はやばやと二人の自爆テロ犯が特定された。やはりというべきか、ブラヒム・バクラウィ(29)とハリド・バクラウィ(27)の兄弟は2010年と11年、それぞれ強盗事件を起こして、実刑判決を受けた者たちだった。

 フランスでもそうだったように、ISは単なる愚連隊の犯罪組織とテロ組織を結びつける。宗教テロリストにはしばしば殉教のストイックさが求められるが、欧州に蠢くISのテロリストたちはそうではない。彼らは、経済社会から落ちこぼれたスラムに生まれ育ち、犯罪組織に落ちてゆくような者たちである。そんな彼らの人生にISはそっと割り込み、その不満のエネルギーに宗教という口実を与え、兵士に仕立て上げるのである。そして、再び故郷に戻すと、彼らは幼馴染の麻薬の密売者と這い回りながら華々しく散るその日のためにせっせと準備する。

輸出されるテロリスト

 2015年12月、アメリカのインテリジェンス会社がある統計データを発表した。

 フランス〔1700〕、英国〔760〕、ドイツ〔760〕、ベルギー〔470〕……。

 これはISの拠点、イラク、シリアに渡った欧州の人々の数である。またこれとは別にフランスの市民団体はシリアに渡ろうとして、直前で保護された若者(12~30歳)、234名の調査を行い、その殆どが熱心なイスラム教徒ではないことを明らかにしている。

 これらのデータが何を意味するのか、もはや明らかであろう。欧州のいたるところにテロリストの種は蒔かれているのである。そして芽が出たらそれを輸出して、ISが育てる――。恒常的に種を蒔きつづける欧州の社会構造にもまた、一連の悲劇の根源はある。

 今回のテロリストは、本当は原子力発電所を狙っていたのだといわれている。しかし、パリ同時テロの実行犯が3月18日に逮捕されたことで、迫りくる捜査網を感じ取り、あわてて空港と地下鉄を狙った。もし原発が襲われていたならば……。

 ただ、故意か偶然かはべつとしてEU本部の近くで事件が起きたことで、欧州の人びとはEUへの挑戦として受けとっている。

 かつてEUは平和と民主主義の理想を掲げ生まれたが、いま、理想を現実に合致させる段階に来ている。ちょうど投機筋がユーロを揺さぶったように、ISは否応なき回答を迫っている。(『EU騒乱 テロと右傾化の次に来るもの』より、一部抜粋)

広岡裕児(ヒロオカ・ユウジ)
1954年、川崎市生まれ。大阪外国語大学フランス語科卒。パリ第三大学(ソルボンヌ・ヌーベル)留学後、フランス在住。フリージャーナリストおよびシンクタンクの一員として、パリ郊外の自治体プロジェクトをはじめ、さまざまな業務・研究報告・通訳・翻訳に携わる。代表作に『エコノミストには絶対分からないEU危機』(文藝春秋社)、『皇族』(中央公論新社)他。

デイリー新潮編集部