セブン&アイ会長の辞任表明の背景にあった「怪文書騒動」と「情報漏洩」

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 4月7日に開かれた「セブン&アイ・ホールディングス」の取締役会では、“流通の神様”鈴木敏文会長(83)の主導の下、「セブン‐イレブン・ジャパン」の井阪隆一社長(58)を交代させる人事案が提案された。無記名にて行われた投票の結果、賛成7票、反対6票、棄権2票で人事案は否決。井阪社長はもちろん、創業者の伊藤雅俊名誉会長(91)の次男・順朗取締役(57)も「反対」に回ったとされる一方、鈴木会長とその次男の康弘取締役(51)が「賛成」したと言われている。伊藤家と鈴木家の対立構図が透けて見えたこの取締役会後、鈴木会長は「オレは辞める。勝手にやってくれ」との捨て台詞を吐いたという。

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セブン&アイ会長の辞任表明の背景には、一体、何があったのか

 その日の午後、記者会見に臨んだ鈴木会長は、グループの全役職を退任する意向を表明。だが、その心境は明鏡止水とはとても言えないものだったようで、会見では井阪社長への恨み節を繰り返したのだ。曰く、

「(社長になってからの)7年間の成果は全部自分がやったという言い方をし、私が否定するとケンカ腰でくってかかってきた」

「(井阪社長は)マンションの払いが残っているから、今辞めるわけにはいかない、と言っていた」

 これについて、当の井阪社長は困惑顔で語る。

「(私は)マンションは持っていないですから。(鈴木会長のことは)今でも、尊敬している。そういう方にああいうことを言われて悲しい思いはしています」

 では、なぜ鈴木会長は誤った情報まで持ち出してきて井阪社長をなじったのか。井阪社長に対して不信感を募らせていく背景には、一体、何があったのか。

■怪文書騒動

「昨年から今年にかけて、セブン&アイに対する“揺さぶり”とも言うべき騒動がいくつか起こっていた」

 と、社内関係者は言う。

「1つは怪文書騒動。もう1つは、大株主であるアメリカの投資ファンド『サード・ポイント』から質問状が相次いで送られたこと。これらの騒動が起こるのを抑えられなかった、あるいは騒動の裏で井阪社長が糸を引いているのではないかと疑い、不信感を抱いていたのです」

 昨年12月、セブン&アイの役員宅などに送り付けられた怪文書が手元にある。

〈許されざる禁断の愛・××(原文では実名)と××(同)の密会(不倫)証拠写真〉

 そんなタイトルの下に、ラブホテルから出てくる男女の写真が添付されている。ご丁寧にもホテルの名前、滞在した日時、時間まで記された上、こんな文言も。

〈毎土曜日、サービスタイムを利用!社内相互監視体制を強化しよう!!〉

「この怪文書で名指しされている男はセブン‐イレブン・ジャパンの幹部社員ですが、彼の上司のパワハラや不倫を告発する怪文書も同時期にばら撒かれた。鈴木会長は、この怪文書騒動を回避できなかったとして井阪社長に不満を募らせていったわけです」

 と、先の社内関係者。

「不可解だったのは、この怪文書騒動を受けての鈴木会長の動きです。上司のほうは降格人事という形で処分されたのですが、部下の幹部社員はなぜか昇格させたのです。この人事は社内に衝撃を与えました」

 それからほどなくして、今度は傘下のイトーヨーカ堂の戸井和久社長が就任から1年半で辞任し、前任の亀井淳顧問が社長に復帰。この人事も、社内で衝撃をもって受け止められた。

「鈴木会長は戸井さんに命じて、イトーヨーカ堂のセブン‐イレブン化というのを進めさせていた。イトーヨーカ堂でセブン‐イレブンの商品を販売するのですが、これが見事に失敗。すると鈴木会長は戸井さんに責任を押し付けて辞めさせたわけです。戸井さんからすれば“なんで俺のせいなの?”という気持ちだったでしょう」(同)

■「獅子身中の虫がおりまして」

 こうした不可解人事が続いた上で、鈴木会長が持ち出してきたのが井阪社長の退任案。その人事案が取締役会に諮られる前に、投資ファンド「サード・ポイント」に漏れたことに対し、鈴木会長は苛立ちを募らせていたという。彼は退任会見の際、投資ファンドへの情報漏洩について、

「獅子身中の虫がおりまして、色々なことを外部に漏らしていたということは事実でございます」

 と述べたが、セブン&アイの関係者はこう話す。

「鈴木会長は、井阪社長こそが『サード・ポイント』に情報を流した獅子身中の虫だと思い込んでいた。それで一層、井阪憎しの思いを募らせたのでしょう」

「特集 『伊藤家と鈴木家』25年に亘る確執 世襲に固執で陰口は『豊臣秀吉の晩年』 鈴木会長が現社長を排除したかった理由 『獅子身中の虫』とこき下ろした相手は誰か 仕組まれた取締役会『1票差』の屈辱『セブン&アイ』凄まじき権力闘争」より

週刊新潮 2016年4月21日号掲載

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