小学生に毎日129分テレビを見せてよいのか問題 〈子供に最良な受験時期は? 悩める親への完全ガイド(1)〉

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 この時期、新聞紙上にも折込みにも塾の広告が目立つ。だが、中学受験と高校受験のどちらを選ぶかによって、通う塾はまったく異なるし、小学校受験という道もある。はたして、自分の子供にはどれが一番合うのか。悩める親のための完全ガイドをお届けする。

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慶應義塾幼稚舎

 東京在住の女性Aさんは、現在、小学3年生の息子を私立の中高一貫校に通わせたいと思っている。東京では中学受験はポピュラーな選択肢だし、自分自身、中高一貫校での6年間がとても良い思い出だからだ。しかし夫は、地方の名門高校から東京の有名国立大学に進学した公立主義。中学受験なんて必要ないという。

 中学受験をするのなら、小学3年生の2月から受験塾に通い始めるのがスタンダードである。そろそろ塾選びをはじめなければいけない。しかし夫は受験に反対したまま話し合いは平行線。時間がない。焦る。

 こういう相談を受けたとき、私はいつも次のようにお答えしている。

「中学受験をするかしないかは、まだ決めなくていい。とりあえず塾には通ってみたらどうだろうか。4年生のうちは学習サイクルを確立するための1年間なので、通塾も週2回の場合がほとんど。いきなり毎晩夜中まで勉強させられるわけではない。宿題が少ないゆるめの塾を選ぶという方法もある。仮に最終的に中学受験はしないと決めても、勉強したことが無駄になることは決してない」

 決断の先送りだが、選択肢は保持できる。

 実際、中学受験をしなくても、中学受験用問題集の基本問題くらいは解けるようにしておいたほうがいい。今の公立小学校の勉強は基本知識を覚えるだけで、それを活用する訓練が圧倒的に足りていない。たとえばインドの公立小学校で使う算数の教科書には、日本の中学受験用問題集の基本レベルの問題は普通に載っているのである。

■1日平均約129分

 また「小学生のうちは塾なんて行かずに遊んだほうがいい」と言っても、現在脱ゆとり教育で、小学生でも高学年になると、平日はほぼ毎日、6限までびっしり授業やクラブ活動、委員会活動がある。それから家に帰っても外で遊べる時間は短い。学校の宿題さえ終えてしまえば、あとはテレビを見るかゲームをするかになってしまう。

 ベネッセ教育総合研究所の「放課後の生活時間調査」(2008年)によれば、習い事もせず塾にも通わない小学生は、1日平均約129分もテレビやDVDを見ている。それよりは塾に通ってくれたほうがいいと思う親は多いのではないだろうか。

 中学受験に取り組む小学6年生の男子は、私にこう言った。

「小学生のうちは、自由な時間があったって夕方5時ごろまで近所で遊ぶだけ。だったら今は頑張って、中学生になってから友達と電車に乗って遠くに遊びに行ったりしたほうがいい」

 それも一理ありなのだ。

 またよく勘違いされるが、中高一貫校の大学進学実績がいいのは先取り教育を行っているからではない。高校受験がないから、中学のうちは目先のテストで1点、2点を争う必要はなく、理科なら実験、社会ならディスカッションに時間を費やすことができる。宿題もドリル形式ではなく、レポートに時間を割ける。中学のうちに「真のゆとり教育」を享受し、学力の基礎固めができるのだ。しっかりした基礎があるから、その上に難関大学の試験に対応できる高い学力を乗せることができる。

■リーダーシップがある子なら高校進学の選択肢も広がる

 続いて、2人の息子が今春、高校1年生と小学4年生になったBさんのケース。お兄ちゃんはサッカー部で活躍していたが、どちらかといえばシャイで、人前に出てリーダーシップをとるタイプではない。決して不真面目ではないが、テストの点数の割には中学で内申点が取れない。しかたがないので内申点が合否に関わる都立高校はあきらめ、ペーパー試験だけで合格できる私立高校を選んだ。人気進学校に合格したものの、Bさんはこう振り返る。

「こんな思いをするのなら、中学受験をさせておけば良かった」

 そして弟は、この春から中学受験塾に通い始めた。

 一方、大人の前でも物怖じせず、はきはきと話すことができる中学2年生の女の子は、テストの点数がイマイチの割に内申点がいい。父親のCさんは最初不思議に思った。娘に聞いてみると、評定がいいのは、所属するバレー部に関係する先生が担当する教科だということだった。

「そんなのあるんですかね。内申書は一応客観的につけるということになっているじゃないですか。こんなに先生の主観に影響されるなんてびっくりしました。いいんですかね」

 だが、Cさんの娘のケースは例外ではない。小学校で先生受けが良く、クラスでリーダーシップがとれるような子供なら、公立の中学に進んでも良い内申点をとり、高校進学の選択肢も広がるだろう。しかしそうでない子はつらい。そんなことも、中学受験をすべきかどうかの判断基準になるはずだ。

「特別読物 子供に最良な受験時期は小? 中? 高? 悩める親への完全ガイド――おおたとしまさ(育児・教育ジャーナリスト)」より

おおたとしまさ
1973年東京生まれ。麻布中高卒、東京外国語大中退、上智大卒。リクルートから独立後、教育誌等のデスクや監修を歴任。中高教員免許、私立小での教員経験もある。『ルポ塾歴社会』など著書多数。

週刊新潮 2016年4月14日号掲載

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