自虐的高校生の激増と「ありのまま」の弊害 「ほめて育てる」は間違っていた!
親にほめられた記憶と叱られた記憶、どちらが多いだろうか? 年齢が上がるにつれて後者と答える人が増えるのではないだろうか。だが昨今の育児では「ほめて伸ばす」「短所も叱らずに伸ばす」のが王道だ。実際、子育て雑誌や書籍はそのコツや言葉がけの例で溢れている。だが「ほめて育てる」はここ最近の“流行り”に過ぎないことはあまり知られていない。心理学博士の榎本博明氏が解説する。
「欧米で生まれた『ほめて育てる』思想は1990年代、日本に取り入れられました。その大きな理由は、教育界にも親の間にも『ほめて育てることで若者の自己肯定感を高めることが必要だ』という声が高まったことだったのです」。
自己肯定感とは言うまでもなく、自分自身の存在や能力について肯定する感覚のことだ。では「ほめて育てる」の輸入から20年余り、子どもや若者の自己肯定感は高まったのだろうか。いやむしろ、ちょっとしたことで傷ついたり、忍耐強く頑張ることができない若者が増えてきた感がある、と榎本氏は著書『ほめると子どもはダメになる』で主張している。実際に調査データを見てみよう。(以下、「」内は同書より引用)
「ほめて育てる」の輸入から20年余り、子どもや若者の自己肯定感は高まったのだろうか
「2011年に行われた『高校生の生活意識と留学に関する調査――日本・アメリカ・中国・韓国の比較』(日本青少年研究所)は、自己肯定感に関連する項目について尋ねており、同じ項目で調査した1980年および2002年との比較が可能だ。
『自分はダメな人間だ』について、『よくあてはまる』と答えた高校生の比率は、1980年に12・9%であったのが、2002年に30・4%と2・5倍に跳ね上がり、2011年には36・0%と1980年のほぼ3倍にまで増加している。
このことは、ほめて育てることが必ずしも自己肯定感にはつながらないこと、むしろ自己肯定感の育成を阻害する可能性があることを示唆するものといえる」
「同じ調査で、『現状をそのまま受け入れる方がいい』という項目がある。これを肯定する(『よくあてはまる』+『まああてはまる』)高校生の比率は、1980年に24・7%であったのが、2002年に42・1%と2倍近くになり、さらに2011年には56・7%と大幅に増加した。1980年には4分の1だったのに、30年で半数を大きく超えたわけだ。これは自己肯定感そのものについての項目ではないが、現状を克服しようという意欲が年々低下していることを示しており、自己肯定感の低下を示唆するものといえるだろう」
「ほめて育てる」ことで自己肯定感が上がったとは言えないようだ。ではなぜ「ほめて育てる」は持ち上げられ続けるのか。誰がそれを支持しているのだろうか。
「憎まれ役を買ってでも、子どもを鍛えて社会に送り出すといった使命感より、子どもに嫌われたくないという自己チューな思いの方が強い親にとって、『ほめて育てる』という思想は非常に都合のよいものだったのです。ただ子どもとニコニコ、快適に過ごしていられるのだから。
じつは『ほめて育てる』というのは、子どものためというより、親自身の自己愛を満たすためと言えます。彼らはペットのように子どもをかわいがる親とも言えるでしょう。そこにみられるのは、子どもを一人前に育て上げて社会に送り出すのが使命であるという親としてのアイデンティティの崩壊です」
そろそろ「ほめて育てる」がどこまで効果的なのか、冷静に考える時に来ているのではないか。