「東芝」「マクドナルド」大企業に見る失敗例 間違いだらけの「謝罪会見」事例研究2015(3)

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 企業の危機管理のプロである田中辰巳氏が「謝罪会見」の真髄を説いた当連載。今回は日本と世界を代表する二つの大企業の対応について聞いた。

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 危機管理には、「感知・解析・解毒・再生」という4つのステージに合わせた対応が求められるというが、犯した過ちや罪の重さを認識し、その後の展開を予測する「解析」よりも前段階に当たる、危機を感じ取り、事態を正確に把握する「感知」で躓(つまず)いた企業もある。巨額の不正会計で世の中を騒然とさせた東芝である。
 

「感知」で躓(つまず)いた東芝

 社内調査で500億円とされた利益の水増し額は、第三者委員会の報告で1500億円となり、その後、2200億円にまで膨らんだ。事実関係を正確に「感知」できず、次々と新たな不正が明るみに出る。消費者に隠蔽体質を印象づける危機管理上、最悪の展開だ。

 実は、広告業界にはこれとよく似た“ティーザー広告”という手法がある。自動車メーカーが新車を発表する際、最初のCMでは後ろ姿だけ、次にフロント、最後に全形と、徐々に露出部分を増やすことで視聴者を惹きつける。東芝は同じ手法で全く逆の効果を呼び込み、不祥事を際立たせてしまったのである。

 さらに、第三者委員会は、東芝の歴代社長が「チャレンジ」という言葉で過大な目標達成を強いたことが社員を不正に走らせたと非難した。しかし、当の田中久雄前社長は、

「私自身はチャレンジという言葉は使っていない。私は必達目標値という言葉を使っていました」「不適切な会計処理がされていたというふうには認識しておりませんでした」

 と釈明している。社長が不正を指示するのはもちろん論外だが、不正を「感知」して未然に防ぐことも務めであろう。こんな責任逃れの答弁では、東芝商品に愛着を持っていた消費者の疑念を払拭し、「解毒」することなど不可能だ。

■カサノバ社長の謝罪も……

 東芝と類似した例として、日本マクドナルドの会見が挙げられる。

 昨年末からチキンナゲットやソフトクリームへの異物混入事件が相次ぎ、今年1月に陳謝に追い込まれたが、サラ・カサノバ社長は海外出張を理由に謝罪会見を欠席する。対応した役員は異物の混入経路を「不明」としながらも、

「品質に問題はない」「自分の家族にも自信を持って食べさせられる」

 と繰り返した。言うまでもなく、マクドナルドの商品は子供が好んで口にする。その親世代の消費者が求めたのは確実な再発防止策だったが、根拠に乏しい自己弁護しか聞くことができなかった。ちなみに、一度は会見を欠席したカサノバ社長だが、翌2月の決算発表で初めて自ら謝罪している。だが、筆者からすれば、これも誤った判断だった。

 決算発表はあくまでも株主を安心させる場であり、「わが社の経営は、この程度の問題で影響を受けません」とアピールする他ない。つまり、「こんな深刻な問題を起こして申し訳ありません」という謝罪のスタンスとは正反対なのだ。この2つをセットで行ったことで、それぞれの意義を相殺してしまったのである。

 マクドナルドや東芝ほどの巨大企業となれば、弁護士とも入念な打ち合わせをした上で会見に臨んでいる。株主による集団訴訟も想定されるため、会見での言葉も制限されるのが常だ。とはいえ、訴訟リスクを重視するあまり、世論への配慮を欠くなら、そもそも謝罪会見を開く意味があるのだろうか。

「特別読物 間違いだらけの『謝罪会見』事例研究2015――田中辰巳((株)リスク・ヘッジ代表)」より

田中辰巳(たなか・たつみ)
1953年愛知県生まれ。メーカー勤務を経てリクルートに入社。「リクルート事件」の渦中で業務部長等を歴任。97年に危機管理コンサルティング会社「リスク・ヘッジ」を設立。著書に『企業危機管理実戦論』などがある。

週刊新潮 2015年12月17日号掲載