百寿者が日本の5倍のサルデーニャ島 92歳でバールを経営するお爺ちゃんの食生活

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 イタリア領だが、半島からは少し隔たった島、サルデーニャでは、100歳まで生きる確率が世界でもとびきり高いという。それも多くの場合、亡くなる直前まで元気に活動しているというのだ。百寿者の楽園はいかにして現出したのか。その秘密を現地に探った。

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 イタリア半島を長靴にたとえたとして、つま先でシチリアを蹴とばした先にあるといえば、サルデーニャの位置が大雑把ながらも伝わるだろうか。

 地中海はティレニア海に浮かぶその島は、ヨーロッパで最も美しいといわれるセレブ御用達のビーチ、エメラルド海岸がことさら有名だが、近年、ほかの点でも世界的な注目を浴びるようになった。長寿である。

長寿の町、ペルダズデフォグ遠望

 国連による2012年の統計を見ると、100歳以上の高齢者が人口に占める割合は、日本では10万人あたり42・76人。堂々の世界一だが、サルデーニャの山間部では、1万人あたりに占める100歳以上の割合が、20人を超えるというのだ。つまり日本の5倍。

 分母を違えて比べた点は、ご容赦いただきたい。地中海の島ではシチリアに次いで2番目に大きいサルデーニャの面積は、約2万4000平方キロ。九州よりは小さいものの、四国よりは大きい。しかし、人口は166万人と、四国の半分にも満たない。とりわけ長寿者が多い東南部のオリアストラ県は、人口密度が1平方キロあたりわずか31人と、イタリア国内でも断トツの低さなのである。

■9人きょうだいの合計年齢818歳

 ともあれ、サルデーニャにおける長寿の謎を解くべく、白砂が広がる珠玉のビーチには脇目も振らず、山間部オリアストラ県の、わけてもペルダズデフォグという、人口2300人余りの小さな町をめざした。ここのメリス家で2012年、9人きょうだいの合計年齢818歳が、ギネス世界記録に認定されたからだ。

 サルデーニャ南部の州都カリアリまで、ミラノから飛行機で1時間半ほど。そこからは、レンタカーで山道をひた走るしかない。灌木が生い茂る山々は、なだらかな地形も、峻厳なそれも、そこかしこに岩肌が露出し、家畜が草をはむ姿が見える。

 それらは車窓から遠方に望めるだけではない。しばしば車道には、ゆるりと闊歩する牝牛が立ちはだかり、羊やヤギの群れで埋めつくされる。“獣口密度”はおそらく、1平方キロあたり1000は下らないのではないだろうか。むろん家畜たちは、サルデーニャの人々の食生活と密接に関わっている。

 ペルダズデフォグの町のあちこちで、80歳や90歳を超えていると思しき人たちが元気に歩くのとすれ違う。自身が経営しているバールにアドルフォ・メリスさんはいた。アドルフォさんはここで毎日バリスタとしてコーヒーを出しているという。

92歳の現役バリスタ、アドルフォ・メリスさん

「23歳で軍隊に行き、戦後しばらくしてバリスタを始めて、もう57年です」

 そう言って、マメに動き回るアドルフォさんは、足腰が強いばかりか、視力や聴力もすこぶるいい。日ごろの暮らしぶりを尋ねると、長年、そのリズムは変わっていないという。

「この上が住居で、毎朝5時半に起きるとバールに降ります。10歳のときから5時には起きて、牛の世話をしてきました。日曜日は教会のミサに行きますが、平日は7時半に朝食で、ヤギや羊の乳に砂糖を入れ、パンをちぎってつけて食べます。子供のころはヤギの乳を搾って飲んでいましたね。1頭から毎日3リットルの乳がとれるんです。昼食は12時から13時の間。妻が作るものを食べます」

 妻のデリアさん(78)によれば、これまで作った料理を嫌がられたことはないという。どんな内容か。アドルフォさんが続ける。

「肉を少し。牛、豚、鶏、羊、ヤギ、うさぎ。幅広く食べます。ほかにパスタやミネストローネ。とくにミネストローネは父がよく作って、子供のころから頻繁に食べてきました。ビタミンがたくさん取れて、健康にいいんだ。野菜は自家製を使います」

長寿者の誰もが食べるミネストローネ

 続いて夕食は、

「7時すぎにパスタと肉を少し、そしてサラダ。9時ごろには寝ますね。昼も夜も食事と一緒に赤ワインを飲みますが、それはカンノナウというぶどうから自分で作っています。デザートも食べますよ」

 食生活をおおいに楽しんでいる様子が伝わるが、ただし――である。

「食べることは好きだけど、食べすぎないように、必ず腹八分目で抑えている。ワインも酔わないように、1回につき、グラス半分ほどにしています。ただ、水はたくさん飲みます。そして、いつも体を動かすようにしています。野菜やぶどうは自分で畑を耕して作っていますし、バリスタの仕事もスポーツみたいなものですからね」

 ところで、昼食によく食べるというミネストローネは、107歳で亡くなった長女のコンソーラさんをはじめ、メリスきょうだいが、若いときから等しく食べてきたものだという。そのレシピをアドルフォさんに説明してもらった。

「鍋にラード(豚の脂)を入れて加熱し、玉ねぎやセロリを妙めます。僕が子供のころはニンジンはなかったけど、最近はニンジンも妙めますね。そして、別の鍋でエンドウ豆やヒヨコ豆をやわらかく煮込み、そこにポテトや、フレーゴラという米粒みたいな自家製パスタも加える。で、2つの鍋を一緒にして煮込むんです」

 ちなみに、良質なたんぱく質と食物繊維を含む豆をよく食するという点は、長寿者が多い世界中の地域に共通するといわれる。

 アドルフォさんは、ことあるごとに「昔は貧しかった」と強調するが、ミネストローネの食卓をめぐって、きょうだいが争うことはなかったそうだ。

「いまに至るまで、きょうだいで喧嘩もしない。親類も地域の人も、いつもみんな明るくあいさつし合えるから、寂しくもない」

 そう言って、屈託のない笑顔を見せた。

「特集 地中海に浮かぶ『百寿者の楽園』を現地取材! 『サルデーニャ島』で見つけた元気な100歳の食事と生活」より

週刊新潮 2015年11月12号掲載