「鬱になりかけていた」 95歳の瀬戸内寂聴さんからのメッセージ

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■95歳初の著書

自分の幸せは自分で守らなくちゃいけません。人には苦難をはね返す力があるんです。

 6月18日、瀬戸内寂聴さんが開いているお寺「寂庵」で法話の会が開かれた。参加したのは、全国のみならず海外からも駆けつけた抽選で選ばれた150人である。

 先月15日に95歳となり、今月には「95歳としては初の著書」となる『生きてこそ』を刊行したばかり。まだ執筆意欲も旺盛で、常人ばなれしたエネルギーは健在……と思いきや、法話で明かされたのは意外な事実だった。

 実は瀬戸内さんは2月に心臓の手術を受け、それから3カ月は身体が思うように動かず、何もできなかった。書くことが一番楽しいのに、新しい作品を書くことができなかった。そのため、鬱になりかけたというのだ。

 しかし、瀬戸内さんは前向きに考えることをやめずに、立ち直ったのだという。

「身体が思うように動かないと、何もやる気がおきない。それでも定命が来るまで人は生きなければならないんです。だから何か、自分が楽しいと思うこと、自信が持てることを探して、それを目標にするんです。私はペンを持ち、小説を書くことを目標に、病気をなんとか乗り越えました」

■今はひどい時代だけれども

 モノは豊かになったとはいえ、今は決して良い時代ではない、と1世紀近く生きてきた瀬戸内さんは感じている。それでも、と聴衆にこう語りかけた。
「今は政治がひどいし、世界中でテロが起きているし、今にも戦争が始まりそうで、安心して暮らせる世の中ではない。

 それでも同じ状態は続かないんです。
 必ず変化はあるんですから、世の中に負けないで生きて、自分の幸せは自分で守らなくちゃいけません。人には苦難をはね返す力があるんです。
 みなさんも病や苦労に負けないで、自分にとって楽しいことを探して、前向きに生きる心を強く持ちましょう」

 なお、女性の年齢というのは多くの場合、デリケートな問題をはらんでいるものだが、さすがに瀬戸内さんくらいになると、そのあたりは超越しているようで、同書の帯に大きく書かれた「95歳。」というキャッチコピーを気に入っているとのことである。

「病気の時は痛くて苦しかったけど、今こうして随筆をまとめた本と、初めての句集も出せるようになった。それはうれしいし、また新しいものを書いていこうという気持ちにもなってきた。
 やはり生きてこそ、だとあらためて思った」

デイリー新潮編集部

2017年6月27日掲載

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