ハム・ベーコンに「発がん性」って本当? WHO発表に異論反論

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 昭和天皇の大好物は、バナナのベーコン巻だったと言われている。

 戦後、ハムやソーセージなども含めた加工肉は一般庶民にも普及し、いまでは日本人の食卓に欠かすことのできない食品の一つとなった。

 ところが、WHO(世界保健機関)傘下のIARC(国際がん研究機関)によって、10月26日、衝撃的なニュースが発表された。

 その内容は、一定量の加工肉を摂取し続けると大腸がんや結腸がんを発症する可能性が高まり、さらに、赤身肉にも膵臓がんや前立腺がんの発症リスクがあるというものだった。

■「赤身肉にも発がんリスク」

ハム・ベーコンに「発がん性」がある理由とは?

 大の肉好きというわけではなくとも、不安を覚えてしまう向きは少なくないのではないだろうか。

「ハムやソーセージなどの加工肉には、酸化して黒ずんでしまうのを防ぐために、発色剤として亜硝酸ナトリウムが添加されています」

 と解説するのは、管理栄養士の資格を持つ、横浜創英大学の則岡孝子名誉教授である。

「体内に摂り入れた肉はアミノ酸に分解されますが、その一部は腸内細菌の働きで、アミンという有害物質になる。このアミンと亜硝酸ナトリウムが反応すると、強い発がん性を持つニトロソアミンという物質がつくられます。しかも、亜硝酸ナトリウムは加工肉に限らず、イクラやタラコなどの魚卵系の加工食品にも使われている。魚卵のたんぱく質でも、同じようにニトロソアミンは生成されることになります」

 実際、ラットに少量でもニトロソアミンを投与すると、肝臓がんや腎臓がんを発症することが判明しているという。

 さらに、医学博士でもある、日本食育協会の本多京子理事も、

「加工肉には、亜硝酸ナトリウムという発色剤以外に、調味と腐敗防止のために多くの食塩が用いられている。塩分の多量摂取が胃がんのリスクを高めることは、医学的にも実証されています」

 と明かす。

「それだけでなく、WHOの研究機関は赤身肉にも発がんリスクがあると公にしました。人間の腸には、約100兆個にもなる腸内細菌が棲みついています。そのうち、善玉菌と呼ばれる乳酸菌やビフィズス菌などは食物繊維やオリゴ糖を好みますが、大腸菌や黄色ブドウ球菌などの悪玉菌は動物性の脂肪やたんぱく質をエサにしている。ですから、肉類の過剰摂取は、悪玉菌の働きによって、アンモニアや硫化水素などの有害物質や発がん性物質が増加してしまうのです」

■無用な心配

 IARCが2012年に行った調査では、がんによる死亡者は全世界で約820万人に上ったという。

 そのなかで、喫煙を原因とするがんの死亡者数は約100万人、アルコール摂取が約60万人、大気汚染は約20万人と推計された。一方、加工肉の過剰摂取のそれは、約3万4000人だった。

 現段階では、他と比べて桁違いに少ないとはいえ、IARCがわざわざ警鐘を鳴らしたことに対し、国として何らかの対策を講じようとはしているのか。

 厚労省に聞くと、

「加工肉と一言で言っても、食塩の量や添加物について違いがあり、種類も多岐にわたるため、加工肉全部を避けるべきだと一概に判断できる状況にはありません。IARCがより詳細なデータを出してくれば、何を控えた方がいいかなどの検討をすることも可能ですが、いまのところ静観するしかない。むしろ、注意喚起をすれば、逆に不安を煽りかねません。なので、従来通り、バランスの取れた食事を心がけるよう啓発活動を続けていきます」(生活衛生・食品安全部基準審査課)

 むろん、加工肉を、アスベストやたばこと同列に危険視することに、続々と反発の声が沸き起こった。

 ソーセージ生産額世界一を誇るドイツのクリスチャン・シュミット農相は、

「ブラートブルスト(ソーセージの総称)にかじりつくのを怖がる必要はない。何でもそうだが、重要なのは量。何かを食べ過ぎたら、いつだって健康には悪い。アスベストと同じグループに加工肉を分類すれば、無用な心配を与える」

 との声明を発表。

 また、食肉生産大国であるオーストラリアのバーナビー・ジョイス農相はラジオ番組に出演し、

「たばこと比較すべきではないし、あきらかにそれによって、何もかもがお笑い種(ぐさ)と化している。ソーセージとたばこを比較するなんて……」

 と批判を露わにしたのである。

 日本ハム・ソーセージ工業協同組合の宮島成郎専務も、憤懣やるかたない様子でこう語る。

「確かに、加工肉には添加物が含まれていますが、WHOの研究機関が発表した内容では、それに発がんリスクがあるのかどうか、はっきりとはわかりません。発がんに至る因果関係は一切解明されていないのです。さらには、アスベストと肩を並べる危険性がハムやソーセージにはあると指摘していますが、その根拠も明確にはされていない。WHOは、加工肉に対する信頼を揺るがすような発表をしておきながら、その説明責任を果たしていないのです」

「特集 WHO発の衝撃ニュース! ハムとソーセージは『アスベスト並み』の発がん性とは本当か?」

週刊新潮 2015年11月12日号掲載

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