親子絶縁! 夫婦離婚! 危険すぎる「実家の片づけ」――辰巳渚(「家事塾」主宰)

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

 たとえば千葉県に住む80代のBさん。ずっと一人暮らしの彼女は、今後もそれを通すつもりだ。

「幸い、一人で不自由なく暮らせるくらいのお金はありますしね」と笑うBさんだが、体力がなくなってきた分、人に譲ろうと思っていた美術品や、空き部屋や玄関、廊下に増えつつある不用品の山は気にしている。子どもに迷惑をかけたくないと、相談に来たのである。

 実際、家を訪ねると、廊下には箱、部屋には絵が山のように積まれ、注意して歩かなければ足を取られるほど。躓きでもしたら骨折し、あげくに寝たきりなんてことにもなりかねない。

 だが、片づけの見積もりを出したら、「やっぱり今、急いでやらなくても……。もう少し涼しくなったら」という返事だった。

 片づけ相談において、初回のヒアリングから発注まで1年2年と間があくのは、よくあることだ。しかし、専門家の目で見ると、実は思い立ったときがもっとも必要なタイミングだったという場合も多い。とくに高齢で持病がある場合、年々気力・体力が衰えていく。「あの時やっていれば」と本人が後悔するか、「相談してくれていれば」と子どもが親を責めるか、どちらかになりかねない。

 兵庫県のCさん(60代)は、夫の両親が亡くなった後、その実家は数年にわたり空き家状態だという。「空き家対策」の対象ともならないので、親戚一同、誰も何もしようとしないのだ。

「仏壇がほったらかしなので気になるんですが、夫は“うちでは引き取れないよ”と言うし、親戚は“置いておかなければ”と無責任だし」とCさんは嘆く。

 親が亡くなった時点でしっかり整理をすべきだったのに、タイミングを逸してしまった典型的なケースである。今は親戚間の揉め事を避けている状態だが、Cさんは「夫の兄はもう70歳です。もし何かあったら、仏壇の行方や相続問題で騒動になるはず」と、火種となることを心配している。

 冒頭のAさんも、いわば義父母に任せきりにして片づけを先延ばしにした結果、“火事”になってしまった実例である。実家の片づけは、先延ばしにしてもいいことはないのだ。

 しかし、だからと言って、片づけに着手したとしても、失敗する人は珍しくない。その“やり方”が重要なのだ。

 Dさん(50代)はほぼ寝たきりの母親(80代)と実家で同居している。Dさんは数年前に夫と離婚して、実家に戻ってきた。広島駅まで車で10分程度の好立地にある、広い一戸建てである。

「この家は私の家なんだから。あんたの物は何一つないよ」。母親のためを思って提案した片づけが原因で、母親から言われた言葉がいまもDさんを苦しめている。

 一人暮らしが長かった母親は、北側の寝室と台所以外の部屋を物置状態にしていた。Dさんは、母親が快適な南側の部屋で過ごせるように、と片づけを提案、というより強要。強引な勧めに母親もしぶしぶうなずき、一度は業者を呼んで不用品を2トントラック1台分、処分した。

 しかし、その後も母親が寝室を動くことはなかった。そして、「業者が来て、あっという間に持って行ってしまった。それで十何万円も払って。娘がやることは、だからだめだ。私がいる間は、娘の勝手にはさせない」と態度を硬化させてしまったのである。

 こういうケースでも、子どもは親の意向を確認してはいる。ただ、親は押し切られたと感じているものなのだ。

 Dさんの母親は、私に対しても娘の今後を心配する。「50にもなって、世間知らずの娘なので、私がしっかりしないとだめなのよ」と。意志の強い女丈夫であったことをうかがわせる目と向き合った筆者は、ひそかに親子の業を感じたのだった。

 幼い頃から親の「よかれ」に振り回される子どもがいる。習い事であれ結婚相手の選択であれ。親の情とはわかっていても、そこには恨みつらみがうっすらと積もっていく。

 親が70代80代となるにつれ、親子の関係性は逆転する。子が親の「よかれ」を思い、世話をするようになる。「どうして片づけられないの」「捨てればいいでしょう」と親を叱るとき、どこかで仕返しの気持ちが作用していないと、誰が言いきれるだろうか。

次ページ:■見ないで捨てた物に…

前へ 1 2 3 4 次へ

[2/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。