【報じられなかった角界のタブー】往年の名大関「貴ノ浪」が命を落とした午前10時のラブホテル

スポーツ 週刊新潮 2015年7月23日号掲載

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在職30年の間に500件以上の腹上死に立ち会ってきた専門家が語る

 それでは、当時の状況を、元東京都監察医務院長の上野正彦氏にシミュレートしてもらおう。上野医師は、在職30年の間に500件以上の腹上死に立ち会ってきた専門家である。

「心室が痙攣した結果、胸を握りつぶされるような激痛が走り、“うぅ”とうめくことしかできない。呼吸困難ゆえに胸や喉を掻き毟ったり、口から血の混じった泡がこぼれることもある。それが30秒弱続いた時点で意識を失い、2~3分したら心停止へ。これ以前に電気ショックを与えられれば、蘇生の可能性があるのですが」

 AEDなどの装置を、「休憩3時間で4000円」のラブホテルに望むべくもない。ともすると大阪妻と脈搏を共有するほどの一体感に淫していたのに、苦痛に身もだえするはめになろうとは。映画と違って、随分と凄惨な最期である。

 程なく報告を受けた日本相撲協会は、事実をいくぶん糊塗して発表し、それを素直に受け取った新聞各紙は、こう伝えている。

〈20日午前10時55分、急性心不全のため滞在先の大阪市内のホテルで死去〉

 ホテルの種類や所在地は伏せられたが、むろん人の口に戸は立てられない。真相は果たして、関係者の口伝えにどんどん拡がっていったのである。

 例えば、突然死から2日後のこと。名古屋市内で営まれた告別式に集った300人の列席者からは、「“まだ若いのに残念”などといった声があるなかで、“フクジョウシだってさ”という物騒な単語が飛んでいました」(協会関係者)

 もっとも、親方の死は誰しもまさかと思った災難ではあった。しかしながら、ベテラン記者による次の証言を聞くと、思い当たることの多い事態だとわかる。よく知られるように、力士とは“病気と怪我の巣窟”だが、

「そもそも彼は心臓に大きな爆弾を抱えてきた。04年夏場所中の引退は、心臓が止まりかけての“ドクターストップ”によるもの。その2年後には、急性呼吸不全や心房細動などを併発してICUに入りました。この時は心臓が止まり、緊急手術を受けているのです」

 それだけに、愛人とラブホテルにしけこむなど、自殺行為ではないか。

「高を括っていた」

「確かに」

 と、これは前出・上野氏の解説である。

「親方は高血圧症や高脂血症などの持病を抱えていたということですから、心臓には常に負担がかかっていたわけです。そのうえ、不倫相手とラブホテルでの逢瀬となると、精神的興奮度が高まり、これまた心臓に悪い。ただ、薬を飲んで病気をコントロールしていれば、彼の若さで急性心不全になることはまずない。本人は“体調は悪くない”と高を括っていたのでしょう」

 ひるがえって、先の相撲担当記者が彼の横顔に触れ、

「親方は“宴会部長”とあだ名される陽気な性格で、放っておくとお喋りが止まらない。当然、われわれ記者からも愛されていました。貴乃花部屋に所属する親方として、後進の指導にあたる一方で、その仕事ぶりは協会内で高く評価されてきたのです」

 事実、「広報部・記者クラブ担当」なる幹部候補ポストも経験済みだったのだ。

「だから」

 とベテラン記者が続ける。

「これからの出世は間違いなかった。それというのも、理事長の北の湖がそろそろ退任し、その椅子が八角、そして貴乃花へと引き継がれる流れが固まりつつありますから」

 なるほど、協会にとって大きな損失と惜しまれるのだが、遺族にとっての痛みは計り知れない。大黒柱を喪った悲しみに加え、今際(いまわ)の際に居合わせたのが愛人だったこと。さらに、その死因を決して口にはできないタブーを抱えたことが伸(の)し掛かる。改めて母・京子さんは、

「貞博の娘は、“大丈夫。だってお骨になって毎日そばにいるから”と言うのです。東京だ大阪だと、巡業ばかりだったもんでね」

 こんな風に、気丈に振る舞う孫を不憫に思って肩を落とすばかり。とにかくダブル、トリプルでは済まぬ悲劇なのである。

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