「ドクター秋津」のがんになるのはどっち? 人生はすなわち二者択一の積み重ね!――秋津壽男(総合内科専門医・秋津医院院長)

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■ダイエットの罠

 最後のお題は、男女を問わず、常に国民的関心事となっているダイエットに焦点を当てましょう。

【Q8 「食事でダイエット」と「運動で減量」、がんのリスクがあるのはどっち?】

 ある調査によれば、実に日本人の約7割がこれまでなにがしかのダイエットに取り組んだ経験があるとされています。これはもう“1億総ダイエット社会”と言わざるを得ません。先の設問に挙げたいずれかを実践中の読者も多いと思いますが、やり過ぎれば、どちらも体にストレスとなる。

 まず食事制限の方は免疫物質の構成成分であるタンパク質の不足につながります。これで免疫力の低下を招いてしまえば、がんに罹ったり、その進行が早くなってしまう危険がある。

 グラビア・アイドルの先駆けとも言える堀江しのぶさんは、人気絶頂の1988年、23歳の若さで急逝されました。死因は胃がん。彼女は、「1日1食ダイエット」に挑戦していたため、当時の報道には因果関係を指摘するものもあります。

 堀江さんの胃がんはスキルス性だったといいます。これは発見が困難で、なおかつ進行が早いという特徴があります。私は食事制限と胃がんが直接的に関係しているとは思いません。しかしながら、過度の制限で免疫力が低下し、ただでさえ進行の早いスキルス性のがんが、更にスピードを速めてしまった可能性は否定できないと考えます。

 むろん、運動による減量のデメリットもある。激しい運動は、体内で活性酸素を大量に生み出してしまう。これは生体には猛毒で、体の細胞を痛めつける。しかもがんを抑制してくれるナチュラルキラー細胞(NK細胞)の活性を低下させてしまう。たとえば、2時間半のランニングの後、NK細胞の活性が50~60%も低下したとの報告もあります。だから、当然、がんリスクも高くなる。しかし逆に言えば、この危険性を回避するには、「オーバーワーク」にならぬよう注意すればいいだけのこと。

 かたや、食事制限の方は、摂取量を落とし、なおかつタンパク質・炭水化物・脂質の三大栄養素をきちんと摂るよう、栄養バランスにも注意しないといけない。医師や管理栄養士の徹底した指導のもとで行うなら別ですが、素人が実践するのは難しく、逆に健康被害を招く結果になりかねない。運動より難度の高い食事制限ダイエットに素人が手を出すと、発がんリスクが上昇する危険性があると言わざるを得ないのです。

 これで全8問が終了しました。基本に立ち返れば、がんは「ダメージを受けた細胞が、修復される際に生じたミス」が原因で生まれます。だから自分の細胞が極力、ダメージを受けないような日常生活を送るよう、心がければ良いのです。

 正しい知識を武器にがんと向き合い、予防に取り組んでください。さらにもっと深く“がん対策の智慧”を習得されたい方は、拙著『がんにならないのはどっち?』(あさ出版)をご参照いただければ幸いです。

週刊新潮 2015年7月23日号掲載

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