集落は× 別荘地は◎ 田舎暮らしの新しい提案――清泉亮(ノンフィクションライター)

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■「パネル畑」問題

 しかし、物事にはすべて裏と表がある。別荘地にも難点がないわけではない。それは例えば、地元業者らによる“談合”に表れている。

 彼らは、リフォームを含めて、何かと別荘地での受注獲得に熱心だ。事実、コンビニには、工務店の電話番号が所狭しと貼りだされていることもある。

 薪ストーブの購入や樹木伐採、建物修繕に関し、業者から何度も見積もりを取ってわかったことがある。金額が横並びで、とりわけ割高なのだ。その理由を業者の1人が打ち明ける。

「これじゃあさすがに断られるかな、と思うような値段でも、“いいよ”ってみんな言ってくれるから。やっぱり別荘の人達は違うなあと思ったよ。元パイロットのお客さんの時もそう。ウチは台所事情が苦しかったから、かなり高い金額の見積もりを持ってったんだけど、内容なんか見ないで、一発OKだった」

 なるほど、共存共栄を奉じる業者側の言い値に、別荘住民は唯々諾々と従うケースが多いから、施工費用は高止まりするのだ。また、地元スーパーとて例外ではない。品ぞろえも価格も、高級スーパーの成城石井かクイーンズ伊勢丹かと見紛うほどだ。

 平日にひと箱1500円だった桃が、品川ナンバーの高級車が溢れる週末には5000円にまで跳ね上がる様には驚く。店を出すおばちゃんに質すと、

「都会の人は高くないと買わないのよ。安いと売れないの。お兄ちゃんもお金持ちでしょ」

 否、こちらは別荘族ではなく、別荘地に住まう移住者。誤解なきように。

 それだけではない。

 私の別荘周辺では目下、ある問題が持ち上がっているのだ。

「3・11」をきっかけに、国策化した売電事業。「野立て」と言って、地面に太陽光発電パネルを置くのだが、この事業が大きな収入源となりつつある。よく知られる通り、八ヶ岳南麓は、日本でも指折りの日照環境の良さが特長だ。果たして売電ブームに乗じて、山林や遊休地に「パネル畑」が生まれるようになった。

「わざわざ移住して地方で暮らそうとする。そういった方はとりわけ、都会暮らしで犠牲にしてきた“南向きの陽当たりの良さ”や“眺望”を買おうとしますね」(地元業者)

 いわゆる「ワンツースリー」を切望して八ヶ岳南麓を購入したのに、見下ろせば一面に無機質なパネルが拡がっているという光景は、ブラックジョークに他ならない。その一方で地元自治体によると、

「パネルの認可数は、北杜市内だけでおよそ4000件あります。そのうち、これまで実際に設置されたのは約500です」

 つまり、これからパネル畑がまだまだ生まれる可能性があるというわけだ。そのうえ、所管官庁である経産省は、個人情報保護を盾に、設置予定場所を明らかにしていない。もっとも現時点で、私の庵の周りにパネルは見当たらないのだが。

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