子供に十字架を背負わせる「キラキラネーム」命名辞典

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個性を求めすぎる代償

 一方で、自らのキラキラネームを前向きにとらえている青年もいる。

「僕の名前は“夢有人”と書いて“むうと”と読みます。変わった名前だとは思いますが、これといって困ったことはないですよ」

 こう語る夢有人くんは現在、首都圏の有名私立大学に通いながら、アルバイトに勤(いそ)しんでいる。

「学校でも職場でも、たしかに読み方がわからないと聞かれることはありますが、そこから会話が広がるんですよ。“一体どういう意味なの”と由来を問われれば、夢のある人になってほしいという親の思いだ、と説明しています。珍しい名前だから忘れられることもないし、僕は、この名前でよかったと思っていますよ」

 だが、もとより名前は、共同体の中で個人を識別する社会的役割を担っている。狭いコミュニティの中では、その珍しさで利することもあるかもしれないが、

「特殊な名前のせいで、救急搬送先で患者の取り違えが起こる可能性もあります。名前が読めずに、緊急を要する際に時間を浪費することも想像できます」

 と、牧野氏。全国紙の警察担当記者も言う。

「最近は警察関係者も困惑しています。被害者や加害者の名前を常識的に読んだら、実際には全然違う読み方だったなんてことが頻発しているんです。捜査段階で読み違えが起これば、重大なミスにつながりかねない。記者にこぼす警察関係者も少なくないですよ」

 なにしろ、精飛愛(せぴあ)、麻楽(まら)、苺苺苺(みるきー)なんていう名が跋扈する世の中である。もちろん、名付けられた子供たちに罪はない。問題は名付けた親たちだ。ふたたび牧野氏が語る。

「名付けの相談を受けてきてよくわかったのは、キラキラネームを付けたがるのは、いたって大人しい人たちばかりだということなんです。おそらく学校でも会社でも目立たないし、集団の中で突出しない人たち。“優等生的グループ”として一括りにされることで生き抜いてきて、それがコンプレックスにもなっている。そのために個性を求めすぎて、子供に奇妙な名前を付けてしまうんです」

 キラキラネームといえば、いわゆるヤンキーの専売特許のように思われがちだか、意外にも、そうではないというのだ。もっとも、

「ヤンキーも根は同じです。突出しないで群れる。それが優等生の方向に向いたか、逆を向いたか、という違いに過ぎません」(同)

 親たちの、痛々しいまでの「個性願望」。その果てに多くのキラキラネームは生まれている。

 だが、その結果、なんら責任がない子供たちが不利益をこうむり、社会システムにも影響を及ぼしかねない状況である以上、人名漢字の読み方に、今こそ規制を設けるべきではないのか。

 それを野放しにしているのは、国家の怠慢の誹(そし)りをまぬかれないだろう。

特別読物「子供に十字架を背負わせる『キラキラネーム』命名辞典」より

[著者]白石新(ノンフィクション・ライター)

週刊新潮 2015年1月22日号掲載

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