島田紳助の芸能界引退は何が理由だったのか? 第一人者が「暴力団」を解説
今こそ知っておきたい「暴力団」
島田紳助の芸能界引退は何が理由だったのか。
経緯を辿ると――吉本興業が、紳助と暴力団幹部との親交を示す携帯メールを入手し、同社としては放置できないので、紳助を呼び出して事情を聞いた。紳助はメールが事実だと認め、自らの引退を言い出し、結局、吉本興業は紳助の引退を受け入れた――という流れになる。つまり紳助は暴力団幹部と交際を断つか、それとも吉本興業を辞めるかという選択を迫られ、結局、暴力団幹部との交際を選んだ、とこの騒動を解釈できよう。
ここで疑問が起きる。高視聴率を誇る人気タレントに芸能界を捨てさせるほど、暴力団は魅力があるのか、と。
次のようなことが、仮説として考えられる。今回の引退は魅力ゆえではなく、暴力団への恐怖からだった、と。十数年前、紳助は右翼から街宣車動員の集中攻撃を受けた。それを収めてくれたのが件の暴力団幹部だった。大恩がある。足を向けて寝られない。その幹部と絶交すると言い出せば、幹部は激昂し、命さえ狙われかねない。恐怖が紳助に芸能界を捨てさせた……と。
紳助は暴力団の実態をある程度知っているだろう。今後も大けがをしないようにつかず離れず事業に専念していきたいと考えているかもしれない。
だが、これは甘い。「つかず離れず」をやろうとした多くの者が、骨までしゃぶられてきた。
暴力団について関心が高まる最中に、本書を出すことになった。
芸能人と暴力団の交際は本書でも記している。
今の暴力団は冬の時代というもおろか、お先真っ暗な状況に突入している。末端層は稼ぎのネタが見つからず、窃盗や強盗にまで手を染めている。組事務所に納める月の会費さえ払えず、生活保護を受けた果て、組織からドロップアウトする組員も少なくない。相変わらず上層部は贅沢に暮らしているが、その生活は下の組員が支えてこそ成立する。末端層が崩壊しているなら、上層部の将来が暗くなるのは当然である。
自治体の暴力団排除条例、金融、不動産業に対する警察の行政指導などに追い詰められ、今や暴力団は崖っぷちにいる。飢えている者は手当たり次第に食える者を食う。暴力団を牧歌的なヤクザや侠客と考えるのは、大けがの元なのだ。
本書では、多くの人がイメージや風評でしか知らない暴力団について、正しい情報をふんだんに盛り込んだ。暴力団の所在から組織の成り立ち、覚醒剤や闇賭博でのシノギ、学歴・年収・出世の条件、女とヤクザ、警察との癒着、出会った時の対処法など、基礎的な知識から最新の実態までを「です・ます」調のやさしい文章で、わかりやすく書いた。日頃、暴力団に出会いそうにない人でも、知っておいた方がよい情報がある。
恐いもの見たさの方や暴力団に興味のなかった女性読者も大歓迎である。
溝口敦(ノンフィクション作家)