娘を1人で産んだ妻「出産のとき、どこにいたのよ」夫は20歳美大生の部屋にいた 7歳年上妻の包容力を見誤った男の大いなる勘違い
出会ってしまった20歳の大学生
だが、同居を始めてすぐのことだった。妻のお腹がうっすら膨らみ始めたばかりのころ、彼は利絵さんに出会ってしまった。彼女は20歳の大学生だった。通勤電車の中で痴漢にあっている彼女を助け、痴漢を駅員に突き出したのがきっかけだった。
「その日は僕も急いでいたのでそのまま別れたのですが、数日後、電車に乗ってきた彼女に声をかけられたんです。『あれから毎日、お礼を言いたくて待っていました』と。電車はいつも混んでいるので、なかなか僕を見つけられなかったって。たいしたことをしたわけじゃないのにと言って名刺を出しました。彼女は『改めて連絡します』と電車を降りていきました。ニコッと笑った顔がたまらなくキュートな感じでしたね」
何かを期待していたわけではない。あと数ヶ月で父親になる身だ。仕事と家族以外のことを考えている余裕はないと彼は自分に言い聞かせた。だが言い聞かせなければならないほど、彼女の笑顔に惹かれたことに、そのときの彼は気づいていなかったのだろう。
「そうですよねえ。あのとき、いわゆる恋に落ちたということなんでしょうね。でも僕は一目惚れなんて信じてなかったし、ごく普通にかわいいなと思った程度のことだと思っていたんです」
だから彼女から連絡があって会いたいと言われたときも、礼儀上、会ったほうがいいだろうという判断のもと約束をした。共働きだったため、平日はほとんど家では食事をとらなかった。妻はほとんどつわりもなく元気で働いていたが、「何かあったらすぐ連絡して」ということだけは伝えていた。
結婚していると言い損なって
「カジュアルなイタリアンの店を予約して、利絵にメールし、店内で待ち合わせました。10分前に行ったらちょうど入り口で利絵とばったり会った。『素敵なお店。ありがとうございます』という言葉に、ちゃんとした子だなと思いました」
アラカルトを注文しながら、彼女の食べたいもの、メニューで気になるものを尋ねると彼と好みが完全に一致していた。妻とはあまり食べ物の好みが合わなかったため、そんなことも彼の心を和ませた。
「楽しい時間でした。独身時代、それなりにデートもしたけど、ずっと誰としてもたいして変わらないなあなんて思っていたことを自分の中で撤回しました。彼女は美大生だったんです。僕は法学部だったけど美術は嫌いじゃない。しかも彼女は彫刻をやっていると目を輝かせて言うんです。ああ、若いっていいなと思うと同時に、僕だってまだ20代なんだよなと思ったりもした」
たまたま利絵さんがもっていた彫刻の写真をスマホで何枚か見せてもらった。そもそもどうやってデザインを決めるのか、彫っていくときどういうところがむずかしいのか、彼は思いつくままに質問を重ねた。彼女は丁寧に答えてくれながら、自分の好きな彫刻家の話をした。
「カミーユ・クローデルの話をしていましたね。僕も好きな彫刻家で展覧会で観たことがあると言ったらうれしそうでした。カミーユはロダンの愛人で、彼女の作った作品もロダンのものだと発表されていた。最後はロダンに捨てられて精神病院に入っていた。そういえば映画もあったよねと言ったら、彼女が『私も観ました。大好きな映画です』と」
話が弾み、気づいたら4時間もたっていた。お礼だから私が払うと言い張る彼女をなだめ、「社会人に恥をかかせないで」と彼が支払った。「じゃあ、次回は私が」という彼女に、彼は結婚していると言い損なってしまった。
「次が本当にあるかどうかわからないし、既婚であることを今言わなくてもいいかと思ってしまったんです。その日はひとり暮らしの彼女のアパートに送り届けて、僕はひとり帰りました」
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