「スパイ罪」認定なら最長で拘禁20年…窮地の「北海道新聞記者」をプーチンからどう救うか 政府が極秘検討する“2つの構想”とは
米国への見返りは
いずれにせよ、この第1案を成功に導くには、いわば見返りとして、日本による米国への貢献は避けて通れまい。まず挙げられるのは、経済連携の拡大である。具体的には、米国内の生産設備への投資の後押しや、LNG(液化天然ガス)などの長期購入、必要な防衛装備品の米国企業からの調達などだ。また、日本が交渉ルートを持つ国に米国人が拘束された場合、日本が仲介や領事支援、移送・受け入れなどを担うことも、当然期待されるだろう。
国際関係筋の一人は「現在、米トランプ政権は欧州連合(EU)との関係が円満とは言えない上、国内的にも支持率の低下で不安定な状況にある。日本にとって、米国の協力が得られるかどうかは予断を許さない。一方で、米国はロシアと対話できる機運を一定程度確保しているとも言える」と分析している。
200人超が解放されたケースも
続いて第2案は、ウクライナに捕虜としたロシア人将校らを引き渡してもらい、その見返りとして、ロシアにウクライナ兵らと北海道新聞記者を解放してもらうという構想だ。
実は、これにも似たケースがある。2022年9月、ロシアは大勢のウクライナ兵士らに加え、英国人や米国人、モロッコ人らも含め、200人を超す人々を解放した。ウクライナがロシア側の兵士ら55人と親露派政治家メドベチュク氏らを引き渡した、大規模な交換の一環であった。外国人の解放は、サウジアラビアが仲介した。
英国は当時、ウクライナへの多額の軍事支援を約束していた。ウクライナにとっては、重要な支援国の国民を救うという外交的利益があったと考えられる。サウジアラビアには、自国の仲介能力を示せるという利点があったと見ることができる。
日本外交関係者の一人は「英国は北大西洋条約機構(NATO)の主要加盟国であることに加え、世界有数の情報機関を持つ国だ。そうした立場と能力を生かし、長くウクライナを支援してきた。日常的な協力と信頼関係が基盤になっていたことも見逃せない」と背景に言及した。
この第2案の場合、日本にはウクライナへの追加貢献が事実上必要になる。まずは防衛面での支援であろう。適法な非殺傷物資の提供や医療・輸送支援によってウクライナの負担を軽減するなど、日本の関係法令に沿った支援策を組み立てることである。追加の無償支援や、財政・融資支援の拡大も選択肢となる。なお、日本はウクライナと同盟関係にはないものの、西側の民主主義国として、すでに多くの支援を行っていることは事実である。
スパイ引き渡しの経験に乏しい
敵対国間での捕虜や犯罪者の身柄交換には、実は長い歴史がある。1962年に米ソ間で行われた、U2偵察機の操縦士パワーズと、ソ連の情報将校アベルの交換などがその例だ。戦争や制裁が続く中にあっても、限られた隙間を縫うようにして人道的な交渉が重ねられてきたことは、史実が証明している。
もっとも、日本は現行憲法の下で軍事行動が厳しく制限されており、思想・信条の自由の保障も重視してきた。また、包括的なスパイ防止法は現時点で制定されておらず、スパイ行為による摘発・拘束の事例が他国に比べて少ないことは否定できない。捕虜やスパイ犯の相互引き渡しに関して経験が乏しいのは、致し方ないことだ。
こうした事情があるとしても、ある日本政府関係者は「ウクライナ戦争や、権威主義国家と西側諸国のせめぎ合いの中で、日本政府はできる限りの国際貢献を懸命に行ってきた。日本の外交、防衛、治安活動の実力の集大成として、日本人記者の解放に向け、米国やウクライナに協力を求めて巻き込み、それを実現していく粘り腰の対応が求められている」と語った。
日本と米国、ウクライナとの間では、日ごろから政府間の現場レベルでの連携が積み重ねられており、一定の信頼醸成はできているという。ロシアのスパイ罪では、裁判で有罪となれば最長20年間も拘束されることになり、まさに悲劇である。仮に引き渡し交渉が難航する事態に陥ったとしても、熱意を絶やすことなく、持続的に取り組むことが不可欠だ。それは、日本政府に対する国民の信頼を高めるためでもある。
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