「SNSが原因で若者のメンタルヘルスが悪化している」世界的ベストセラー『不安の世代』の著者ジョナサン・ハイトNY大教授が警鐘を鳴らす

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 いま、世界各国で若年層のSNS利用を規制する動きが広がっている。日本もこの流れに無縁ではなかろう。SNSが若者に与える影響を研究し、世界的ベストセラー『不安の世代』を著した社会心理学者でニューヨーク大学教授のジョナサン・ハイト氏に話を聞いた。

この5年間で「こども時代のあり方」は根底から変わった

 文明社会では依存性があるもの、性的なもの、暴力的なもの、あるいは身体に害を及ぼすものには、子どもを守るために年齢制限が設けられています。ところが、子どもがSNSを開けば“依存”“性”“暴力”“身体的な害”という4つの害悪のあるものすべてに、一度にさらされます。

 誰もがなにかがおかしいと気づいていました。しかし、どうすればいいのか、わからなかった。世界中の人間が問題を認識していたが、「裸の王様」の寓話のように見て見ぬふりをしていたのです。

 なぜ、こんなことになってしまったのか。その出発点は、2010年から15年までのわずか5年間にあります。

 初代iPhoneは2007年に登場しましたが、10年代初めの時点ではスマートフォンを持つ10代はまだ少数派でした。ところが15年頃になると、豊かな国々の若者の間でスマホが一気に普及します。少なくともアメリカでは、Instagramが若者の生活の中心になりました。

 この5年間で、こども時代のあり方は根底から変わったのです。

 私は著書『不安の世代』(西川由紀子訳、草思社、2026年1月刊。現代は『The Anxious Generation: How the Great Rewiring of Childhood Is Causing an Epidemic of Mental Illness』、2024年刊)で、この変化を“子ども時代の大いなる組み替え”と呼びました。

 我々は現実世界では子どもを過剰に保護する一方、オンラインでは無防備と言っていいほど放置してきました。1980年代以降、自由に外で遊び、危険を少しずつ経験し、自分で問題を解決する“遊び中心の子ども時代”は衰えていった。代わりに“スマートフォン中心の子ども時代”が、2010年代初めに一気に広がりました。

 子どもにとって自由な遊びは、単なる気晴らしではありません。子どもは友達との衝突や仲直り、小さな失敗や冒険を通じて、不安を乗り越える力や人間関係の作法を身につけます。我々は子どもからそういう発達の場を奪いつつ、比較、評価、炎上、見知らぬ大人との接触が絶えない世界をそのポケットに入れてしまったのです。

 子どもたちは現実世界からオンラインへ移り、一日の多くを画面の中で過ごすようになりました。その直後、欧米の若者の間には、うつ、不安、自傷行為という巨大な波が押し寄せました。

 これは偶然ではありません。

若い女性に残酷な環境

 現在、SNSの過度な利用とうつ、不安、摂食障害との関係を直接示す研究は数多くあります。とりわけ大きいのが、10代の女子への影響です。心理学的な研究の結果や、SNS企業から流出した資料など、様々な証拠が同じ傾向を示しています。

 若者のメンタルヘルスの悪化については、2008年の世界金融危機が原因だという説明もあります。しかし、その影響は12年、13年頃にはすでに峠を越えており、その後の急激な悪化を説明できません。

〈ハイト氏は『不安の世代』で、米疾病予防管理センター(CDC)などの統計を引き、アメリカでは10年から21年にかけて、10~14歳女子の自殺率が167%上昇したと指摘している。男子の上昇率は91%だった。自殺率そのものはなお男子の方が高いものの、女子の増加率が突出しているのである。

 自傷行為でも同様だ。自らを傷つけ、緊急治療室で治療を受けた10~14歳の女子の割合は、10年から20年までに約3倍となった。

 変化はアメリカだけのものではない。イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどでも10年代初めから、若い女性の不安、うつ、自傷行為の増加が確認されたという。〉

 女子と男子では、傷つき方が違います。

 女子を惹きつけたのはInstagram、Pinterest、Tumblrのような画像を中心とするSNSでした。そこで彼女たちを待っていたのは自分の容姿や暮らしを、絶えず他人と比較させられる世界です。

 髪、肌、生活、体つきまで、一日中、他人から評価され、コメントされる。成長途上の少女を終日、品評会に放り込むようなものです。

 しかも、画面に流れてくる“平均”は現実の平均ではありません。

 選び抜かれ、加工され、最も美しく見える瞬間だけが並んでいる。そのため、多
くの少女が“自分は平均以下だ”と感じてしまう。若い女性にとって、これほど残酷な環境はありません。

 思春期は、脳の可塑性が非常に高い“感受性期”です。おおむね9歳から16歳という、自己像や対人関係の基礎が作られる時期に、毎日何時間も短い動画や他人からの評価を浴び続ける。

 その影響を、大人が一日数時間利用する場合と同じように考えることはできません。

男子は依存に陥りやすい

 かたや、男子も深刻な打撃を受けています。ただ、男子についてはSNSの影響だけを見ていては本質を捉えられません。

 注目すべきは、彼らのドーパミン報酬系です。男子は依存に陥りやすく、そこを狙って利益を上げる産業がいくつも生まれました。

 中心にあるのはゲームですが、ポルノやオンライン賭博も同じです。

 いまのアメリカでは、あらゆるものが賭博化しています。子どもでさえ、オンラインで賭け事に参加できる。そして、あらゆる場所にポルノへの入り口がある。

 こども向けのサービスであるRoblox(オンラインゲームのプラットフォーム)でさえ、成人向けサイトへの誘導が入り込むことがあります。

 男子への影響は、依存、社会からの離脱、そして人生の次の段階へ進めない“自立の失敗”として表れます。

 アメリカでは、いまや30歳前後になったZ世代の男性の中に、親元を離れず、結婚をせず、仕事にも就かず、ゲームとポルノに多くの時間を費やしている人が少なくありません。

 女子が“他人からどう見られているか”という終わりのない評価に追い詰められる一方、男子は、ゲーム、ポルノ、賭博が与える終わりのない刺激の中へ沈んでいくのです。

 SNSが子どもに与える害を、私は大きく3つの“バケツ”に分けています。

 第1は“機会費用”です。有害な投稿を1つも見なかったとしても、画面に奪われた時間そのものがこどもから何かを奪います。アメリカの10代は、TikTokやYouTubeを含むSNSに、1日平均でおよそ5時間を費やしています。13、14歳の約4人に1人が、1日7時間以上使っているという調査もあります。

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 新潮QUEで配信中の記事【日本でも時計の針が動き出した――若年層の自殺者を増加させるSNS、人間関係を乗っ取るAI ジョナサン・ハイト独占インタビュー】では、ハイト氏が『不安の世代』で警鐘を鳴らした「SNSがもたらす4つの根本的な害」やSNS企業の責任を解説。さらに、日本と韓国の若者の自殺・自傷行為に関する最新研究を紹介するとともに、AIが人間関係に及ぼす影響について、ハイト氏の洞察がより詳細に語られている。

デイリー新潮編集部