実際のがん患者は巷に溢れる「画期的ながん治療法」についてどう思っているのか…“標準治療”を選んでも脳裏をよぎる「一発逆転の方法にすがりたい」心理
「やめたら半年ぐらいでもとに戻るといわれています」
副作用のページを見るとありとあらゆる不具合が羅列してある。目の当たりにするとなかなかショックを受ける分量だ。発熱、下痢、便秘、発疹など程度の差はともかく経験があるものから、免疫機能の低下や、内臓の機能低下、手足の痺れなど、どういうことになるのか想像がつかないもの。そして、古典的なネガティブイメージの象徴ともいえる、吐き気、倦怠感、脱毛――。
――抗がん剤というと吐き気がずっと続くというイメージがあるんですが……。
「吐き気を抑えるいい薬が開発されたので昔みたいなことはないですよ」
――あの、脱毛は?
「これは仕方ないですね。やめたら半年ぐらいでもとに戻るといわれています」
やめたら……。やめるときはどうなっているんだろう、と思いつつ、私は質問を続けた。
――実際、日常生活はどうなんでしょうか?
「副作用は個人差があるのでなんとも言えませんが、仕事を続けている人もいますよ」
頭ではわかる。だからといって「じゃあそれでお願いします」とは言えなかった。
パンフレットの最後には「重大な副作用」が箇条書きになっている。可能性は高くはないものの、命に関わる副作用もあるということだ。医者は確率も含めて説明してくれる。
忙しい時間を割いて説明してもらえることには感謝しかない。知的好奇心をくすぐられるのでむしろ嬉しくもある。しかし、症状や発生確率を聞いたからといって、それなら大丈夫と思えるものでもない。これまで聞いたこともない不具合の症状を延々と聞き続けるのもなかなか重い経験で、正直げんなりした。
このとき、私の選択肢は「抗がん剤治療を受ける」か「治療をしない」かの二択だった。治療をすれば、一年前後、延命できる可能性がある。その代わり副作用と付き合わなければならない。治療しなければ数ヵ月の命。
結局のところ、「まあ、やってみるしかないよな」というところに行き着いた。個人差が大きいという副作用が良い方に転がることを祈って化学療法を始める日を決めた。
8月末。その日が、私にとってひとつの“Xデー”になった。
※記事中で引用した文献・資料の出典は以下の通りです。
『白い巨塔』(著 山崎豊子/新潮社/1965年)
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