大滝詠一の才能を信じた男たち 「難解」とされたはっぴいえんど、“誰からも相手にされない状態”からミリオンを達成するまで
制作費は通常の4~5倍
こうして81年、大滝はCBS・ソニーと正式に契約。「A LONG VACATION」が3月21日に発売された。当時、CBS・ソニーで制作宣伝の担当役員だった稲垣博司氏(現音楽プロデューサー)が苦笑いしつつ語る。
「大滝君は野球から落語、相撲、何でも詳しかったんだけど、僕が思うに映画が一番詳しかったかな。で、話をしていたら、映画会社は東宝が一番好きだと。で、CBS・ソニーはイコール東宝だって言い出した。やっぱり明るいイメージでお金を持っていることが彼にとっては魅力だったのでしょうね。だから楽曲を出すならソニーだと思っていたんじゃないでしょうか。実際、いざ始めたら彼の音楽制作費は莫大でした。通常の4~5倍はかかったんじゃないかな。今だから言えますが、他では出来ませんよ。結果的にウチでよかったわけです」
社内からは高額な制作費に疑問を呈する声もあったというが、稲垣氏は「いいものを作るだけじゃなく、新しいノウハウも得られる」と周囲を説得したという。
初回出荷は3万5,000枚だった「A LONG VACATION」は、最終的にはミリオン・セールスとなった。
「コンスタントに売れ続けた結果です。オリコン・チャートでアルバムは1年を通して100位以内にランクし続けたほどですからね。セールスのうち40万本はカセットテープで、売上の3分の1を占めました。このアルバムを車の中で聴きたいと思った人が多かった。ドライブ・ミュージックとして抜群の人気を誇りました」(稲垣氏)。
以降、80年代から90年代に大滝は多岐にわたる作品を手がけるようになる。太田裕美「さらばシベリア鉄道」や松田聖子「風立ちぬ」、森進一「冬のリヴィエラ」、小林旭「熱き心に」、薬師丸ひろ子「探偵物語」「すこしだけやさしく」、小泉今日子「怪盗ルビィ」、さらには、木村拓哉と松たか子が共演したフジテレビ「ラブジェネレーション」の主題歌「幸せな結末」など……演歌からポップスに至るまで次々にヒット曲を生み出していった。
急遽、両A面に
井上陽水「少年時代」(共作)や松田聖子「瑠璃色の地球」などを手がけたことで知られる作曲家の平井夏美氏は、大滝を「作曲家になるキッカケを作ってくれた人だった」と評する。実は「ナイアガラ」の所属作曲家の第1号だったのだ。
「大滝さんが松田聖子の『風立ちぬ』を書き上げた時のことです。当時は新曲が出ると、まず『夜のヒットスタジオ』(フジテレビ)で歌うことになっていました。聖子もデビューから毎回、出演していた音楽番組なのですが、この曲はグリコのポッキーのCMソングだった。森永がスポンサーの『夜ヒット』では歌えないということになったんです。で、急遽、私の作ったカップリングの『Romance』を両A面にしたのです。今、思うと考えられない出来事でしたね」
2013年に65歳で急逝した大滝。その5年後の2018年3月21日に、コンピレーション・アルバム「EIICHI OHTAKI Song Book Ⅲ 大瀧詠一作品集 Vol.3『夢で逢えたら』(1976~2018)」がリリースされた。その発売を見届けるように、数日後、大滝と数多くのCM音楽をともに手がけたON・アソシエイツの大森氏も静かにこの世を去った。日本の音楽業界に新たな風を吹かせた大滝と、その才能を信じ、支え続けた人々。彼らが残した音楽は、半世紀の時を超え、今も新たな世代の耳に届き続けている。
[4/4ページ]

